なぜ退院後に「リハビリ難民」が生まれるのか

脳卒中や整形外科疾患を経験したあと、多くの方がこう感じます。

「退院したのに、まだ全然動けない」
「もっとリハビリをしたいのに、受ける場所がない」
「病院では毎日リハビリしていたのに、退院後は週1回だけになった」
「このまま悪くなるしかないのでは…」

こうした状態は、近年「リハビリ難民」と呼ばれることがあります。

もちろん正式な医学用語ではありません。
しかし実際には、“必要なリハビリを受けたいのに受けられない人”が多く存在しているのが現状です。

特に脳卒中後では、

  • ・麻痺
  • ・歩行障害
  • ・痛み
  • ・痙縮
  • ・高次脳機能障害
  • ・体力低下

などの問題が、退院後も続くことが少なくありません。

それにもかかわらず、多くの患者さんが「リハビリの空白期間」に直面しています。


なぜ退院後にリハビリが減ってしまうのか?

医療保険には期限がある

まず大きな理由として、日本の医療保険制度にはリハビリ日数に制限があります。

脳卒中では比較的長くリハビリを受けられるものの、無制限ではありません。

急性期病院から回復期リハビリテーション病棟へ移り、その後は退院という流れが一般的ですが、診療報酬改定や病床効率化の影響もあり、在院日数は短縮傾向にあります。

つまり、患者さん自身は「まだ必要」と感じていても、制度上は退院になってしまうケースがあるのです。


「生活できる」と「元に戻った」は違う

病院での退院基準は、多くの場合、

  • ・家で生活できるか
  • ・最低限の移動が可能か
  • ・介助量はどうか

といった視点で判断されます。

しかし患者さん本人は、

  • ・元のように歩きたい
  • ・仕事に戻りたい
  • ・趣味を再開したい
  • ・一人で外出したい

など、“生活の質”まで回復したいと考えていることが多いです。

つまり、

「退院できる状態」と
「本人が満足できる回復状態」

には大きな差があるのです。

このギャップが、「まだリハビリしたい」という思いにつながります。


維持期リハビリの不足

退院後は、

  • ・訪問リハビリ
  • ・通所リハビリ(デイケア)
  • ・外来リハビリ

などへ移行します。

しかし現実には、

  • ・回数制限
  • ・人員不足
  • ・地域差
  • ・リハビリ専門職不足

などの問題があります。

特に維持期リハビリテーションについては、必要性が高い一方で、十分な提供体制が整っていないことが指摘されています。

また、介護保険サービスでは“生活支援”が中心になりやすく、「改善を目的とした集中的リハビリ」が十分に行えないケースもあります。


「まだ良くなる可能性」が知られていない

以前は、

「脳卒中の回復は6か月まで」
「慢性期では改善しない」

と言われることもありました。

しかし現在では、脳には“可塑性”という性質があり、適切な刺激や学習によって機能改善が起こる可能性があることが分かっています。

つまり、発症から時間が経っていても、

  • ・適切な運動
  • ・課題練習
  • ・感覚入力
  • ・環境調整

などによって変化が起こる可能性はあります。

一方で、退院後に十分なリハビリ機会が減ってしまうと、

  • ・動かない
  • ・身体が硬くなる
  • ・体力低下
  • ・活動量低下
  • ・廃用症候群

につながり、“本来防げたはずの機能低下”が起こることもあります。


家族だけでは支えきれない現実

在宅生活では、ご家族の負担も大きな問題になります。

退院後は、

  • ・移動介助
  • ・入浴
  • ・トイレ
  • ・転倒対応
  • ・精神的サポート

などを家族が担うことが増えます。

しかし、

「これで合っているのか分からない」
「自主訓練をどうしたらいいか分からない」
「介助が怖い」

という不安を抱えるご家族も少なくありません。

研究でも、退院後のADL変化や転倒リスク増加は、家族の介護負担増大と関連することが示されています。

つまり、“患者さんだけでなく家族も支援不足になっている”ことが、リハビリ難民を深刻化させているのです。


地域による「格差」も大きい

都市部と地方では、リハビリ資源に差があります。

  • ・訪問リハビリが少ない
  • ・外来リハビリが終了してしまう
  • ・自費リハビリ施設がない
  • ・専門職が不足している

など、地域によって受けられる支援が大きく異なります。

そのため、「もっとリハビリを受けたい」という意思があっても、そもそも選択肢が存在しないケースもあります。

地域包括ケアシステムの重要性は以前から指摘されていますが、実際には地域連携や専門職不足など、多くの課題が残されています。


「リハビリを続ける場所」が必要

本来、リハビリは“退院して終わり”ではありません。

特に脳卒中後では、

  • ・生活の中で身体を使う
  • ・実際の動作を繰り返す
  • ・社会参加する
  • ・活動量を保つ

ことが非常に重要です。

退院後の生活こそ、本当の意味でのリハビリが始まる時期とも言えます。

しかし現状では、

「退院した瞬間に支援が薄くなる」

という問題が起きています。

その結果、

  • ・外出しなくなる
  • ・家に閉じこもる
  • ・活動量低下
  • ・二次障害
  • ・再転倒
  • ・再入院

につながることも少なくありません。


自費リハビリが増えている背景

近年、自費リハビリが増えている背景には、この“制度の隙間”があります。

もちろん保険制度は非常に重要です。

しかし、

  • ・もっと改善したい
  • ・集中的に練習したい
  • ・専門的な評価を受けたい
  • ・社会復帰を目指したい

というニーズに対して、保険内だけでは十分に対応しきれない現状があります。

そのため現在では、

  • ・自費リハビリ
  • ・オンラインリハビリ
  • ・地域活動
  • ・自主トレ支援
  • ・テクノロジー活用

など、新しい支援の形も広がっています。


まとめ

「リハビリ難民」は、本人の努力不足ではありません。

背景には、

  • ・制度上の制限
  • ・在院日数短縮
  • ・維持期支援不足
  • ・地域格差
  • ・専門職不足
  • ・家族負担

など、さまざまな社会的課題があります。

しかし一方で、脳卒中後の回復可能性は、まだ十分残されているケースも多くあります。

だからこそ重要なのは、

「退院=終了」ではなく、
“退院後の生活まで支える視点”

です。

患者さん本人だけでなく、ご家族・地域・専門職が連携しながら、「その人らしい生活」を支えていくことが、これからのリハビリには求められています。

最後に、
・改善を諦めていない方
・リハビリする場所がなくて困っている方
・専門的な評価をうけてみたい方

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参考文献

  • 近藤国嗣.脳卒中と地域包括ケア.日本リハビリテーション医学会誌.2018.DOI: 10.2490/jjrmc.55.95
  • 浜村明徳.脳卒中維持期リハビリテーションの現状と課題.総合リハビリテーション.2012.DOI: 10.11477/mf.1552108839
  • 森泉秀太郎ら.回復期リハビリテーション病棟を早期退院後,地域包括ケアシステムを利用した多職種連携支援により社会復帰を達成した脳出血後の一例.J Clin Rehabil.2025.DOI: 10.32118/cr034050548
  • 荒尾雅文ら.脳卒中者における「退院時ADL」と「退院6か月後ADL」の差に関しての研究.理学療法ジャーナル.2009.DOI: 10.11477/mf.1551101381