中枢性疼痛とは? 脳が原因で起こる“見えにくい痛み”を解説

「触れただけなのに痛い」
「何もしていないのに焼けるように痛む」
「しびれだけじゃなく、ズキズキ痛む」
「検査では異常がないと言われた」

脳卒中後、このような痛みに悩まされる方は少なくありません。

その中でも特に特徴的なのが、「中枢性疼痛(ちゅうすうせいとうつう)」です。

これは、筋肉や関節が原因ではなく、“脳や神経そのもの”が原因となって起こる痛みです。

周囲から理解されにくく、本人も「どう説明していいか分からない」と悩むことが多い症状でもあります。

今回は、

  • ・中枢性疼痛とは何か
  • ・なぜ起こるのか
  • ・普通の痛みと何が違うのか
  • ・リハビリや治療で何ができるのか

について、研究や文献を交えながらわかりやすく解説します。


中枢性疼痛とは?

中枢性疼痛とは、

「脳や脊髄など、中枢神経の障害によって生じる痛み」

のことです。

特に脳卒中後に起こるものは、

中枢性脳卒中後疼痛(Central Post-Stroke Pain:CPSP)

と呼ばれます。

これは脳卒中後に起こる慢性的な神経障害性疼痛のひとつです。

特徴は、“実際に傷ついていない場所でも強い痛みを感じる”ことです。

つまり、

  • ・肩が壊れている
  • ・骨が折れている
  • ・筋肉が切れている

といった痛みではありません。

脳の“痛みを感じるシステム”自体が異常を起こしている状態なのです。


なぜ脳の障害で痛みが起こるのか?

私たちは通常、

  • ・熱い
  • ・冷たい
  • ・触れた
  • ・痛い

などの感覚を、神経を通して脳で処理しています。

しかし脳卒中によって、この感覚処理システムが損傷すると、

「本来は痛くない刺激」

「強い痛み」として誤認識してしまうことがあります。

特に重要なのが、「視床(ししょう)」という部位です。

視床は、感覚情報の“中継地点”のような役割をしています。

脳卒中でこの部分が損傷すると、感覚信号の処理異常が起こり、中枢性疼痛につながることがあります。

このため、中枢性疼痛は「視床痛」と呼ばれることもあります。


どんな症状があるのか?

中枢性疼痛の症状は、人によってかなり異なります。

よくある表現としては、

  • 1)焼けるような痛み
  • 2)ビリビリする
  • 3)電気が走る感じ
  • 4)ジンジンする
  • 5)締め付けられる
  • 6)刺されるような痛み
  • 7)冷たいのに痛い
  • 8)風が当たるだけで痛い

などがあります。

また特徴的なのが、

「触れただけで痛い」

という症状です。

これは「アロディニア」と呼ばれます。

通常なら痛くない刺激(服が触れる、風が当たるなど)を、脳が“痛み”として認識してしまう状態です。


なぜ理解されにくいのか?

中枢性疼痛は、見た目では分かりにくい症状です。

例えば、

  • ・レントゲン異常なし
  • ・MRIで新たな損傷なし
  • ・関節の炎症なし

ということも少なくありません。

そのため、

「気のせいでは?」
「考えすぎでは?」
「動いてないからじゃない?」

と言われてしまうこともあります。

しかし実際には、脳内では“痛みのネットワーク異常”が起きています。

近年では脳画像研究によって、

  • ・感覚ネットワーク異常
  • ・視床活動変化
  • ・痛み関連領域の過活動

などが確認されています。

つまり、中枢性疼痛は“実在する神経学的症状”なのです。


発症時期はいつ?

脳卒中後すぐに起こることもありますが、

  • ・数週間後
  • ・数か月後
  • ・半年以上後

に出現することもあります。

このため、

「退院してから痛くなった」
「最初はしびれだけだった」

というケースも少なくありません。

発症頻度は報告によって差がありますが、脳卒中患者の約7〜10%程度に起こるとされています。


普通の痛みとの違い

ここで重要なのは、

“筋肉や関節の痛み”

“神経そのものの痛み”

を区別することです。

例えば肩関節炎では、

  • ・動かすと痛い
  • ・炎症がある
  • ・安静で軽減

などが見られます。

一方、中枢性疼痛では、

  • ・何もしていなくても痛い
  • ・感覚がおかしい
  • ・温度感覚異常
  • ・触れるだけで痛い

など、“感覚そのものの異常”が特徴です。

もちろん実際には、肩関節痛と中枢性疼痛が混在していることもあります。

そのため、評価が非常に重要になります。


なぜ慢性化しやすいのか?

中枢性疼痛は、慢性化しやすいことが知られています。

その理由の一つが、

「脳が痛みを学習してしまう」

ことです。

痛みが長期間続くと、脳は“痛みを感じやすい状態”になっていきます。

これを「中枢性感作」と呼びます。

つまり、

  • ・小さな刺激でも痛い
  • ・常に神経が興奮している
  • ・痛み回路が過敏になる

状態になってしまうのです。

さらに、

  • ・不安
  • ・ストレス
  • ・睡眠不足
  • ・活動量低下

なども痛みを増強させることが分かっています。


リハビリで何ができるのか?

「脳が原因ならリハビリでは変わらないのでは?」

と思われることもあります。

しかし実際には、リハビリによって症状軽減を目指すことは可能です。

もちろん、“完全にゼロにする”ことが難しいケースもあります。

ですが、

  • ・痛みを軽減する
  • ・過敏性を下げる
  • ・身体を動かしやすくする
  • ・生活しやすくする

ことは十分目標になります。


リハビリで重要なポイント

① 感覚入力

中枢性疼痛では、脳の感覚処理異常が関係しています。

そのため、

  • ・触覚刺激
  • ・荷重練習
  • ・温度刺激
  • ・ミラー療法
  • ・感覚再教育

などによって、“正常な感覚入力”を増やすことが重要になります。


② 過度な恐怖回避を減らす

痛みが強いと、

「動くと悪化するのでは」

という不安が強くなります。

すると活動量が低下し、

  • ・筋力低下
  • ・血流低下
  • ・不活動
  • ・疲労

につながり、さらに痛みが悪化する悪循環に入ります。

そのため、“安全に動ける経験”を積み重ねることが大切です。


③ 睡眠・ストレス管理

中枢性疼痛では、

  • ・睡眠不足
  • ・不安
  • ・抑うつ
  • ・ストレス

が症状に大きく影響します。

実際、慢性疼痛では脳の情動ネットワークも関与していることが分かっています。

つまり、「気持ちの問題」という意味ではなく、“脳の痛み処理システム”として関係しているのです。


薬物療法について

中枢性疼痛では、一般的な痛み止め(NSAIDs)が効きにくいことがあります。

そのため、

  • ・プレガバリン
  • ・デュロキセチン
  • ・アミトリプチリン

など、神経障害性疼痛に対する薬が使われることがあります。

ただし、

  • ・眠気
  • ・ふらつき
  • ・倦怠感

などの副作用もあるため、医師との相談が重要です。


「痛みを理解されない苦しさ」

中枢性疼痛で特につらいのは、

「周囲に伝わりにくい」

ことです。

見た目では分からず、

  • ・検査異常なし
  • ・動けるように見える
  • ・日や時間帯によって差がある

ため、理解されにくいことがあります。

しかし本人の中では、強い苦痛が続いています。

だからこそ、

  • ・痛みを否定しない
  • ・「気のせい」と言わない
  • ・本人の感覚を尊重する

ことがとても重要です。


まとめ

中枢性疼痛とは、脳や神経の障害によって起こる“神経そのものの痛み”です。

特に脳卒中後では、

  • ・視床損傷
  • ・感覚処理異常
  • ・神経ネットワーク変化

などによって発症することがあります。

特徴として、

  • ・焼けるような痛み
  • ・ビリビリ感
  • ・触れただけで痛い
  • ・慢性的な苦痛

などがあります。

そしてこの痛みは、周囲から理解されにくいという難しさもあります。

しかし現在では、

  • ・神経障害性疼痛の理解
  • ・脳可塑性研究
  • ・感覚アプローチ
  • ・リハビリ介入

などが進み、症状改善の可能性も広がっています。

大切なのは、

「見えない痛み」を我慢し続けないこと。

適切な評価と支援によって、“少しでも生活しやすい状態”を目指していくことが重要です。


最後に