脳卒中後、
「動かしづらいから使わない」
「どうせ動かないから健側だけ使う」
「時間がかかるから使わなくなった」
このような状態になっていませんか?
実は、脳卒中後の回復を考える上で、“麻痺側を使わなくなること”は非常に大きな問題になることがあります。
これは「学習性不使用(Learned Non-Use)」と呼ばれる現象です。
特に上肢では、
- ・手を使わなくなる
- ・動かそうとしなくなる
- ・麻痺していない側ばかり使う
- ・麻痺側への意識が減る
ことで、“本来残っていた機能”まで使えなくなってしまうことがあります。
今回は、
- 学習性不使用とは何か
- なぜ起こるのか
- 脳で何が起きているのか
- リハビリで改善できるのか
について、文献や研究も交えながらわかりやすく解説します。
学習性不使用とは?
学習性不使用とは、
「動かしにくい経験を繰り返すことで、麻痺側を使わなくなる現象」
のことです。
脳卒中直後は、多くの方が麻痺側を動かそうとします。
しかし、
- ・思うように動かない
- ・時間がかかる
- ・失敗する
- ・疲れる
- ・危ない
という経験が続くと、脳は
「この手(足)は使えない」
と学習してしまいます。
すると徐々に、
- ・麻痺していない側だけで生活する
- ・麻痺側を意識しなくなる
- ・動かす機会が減る
状態になります。
これが学習性不使用です。
「動かない」のではなく「使わなくなる」
ここで重要なのは、
“完全に動かない”
と
“使わなくなった”
は違うということです。
実際には、
- ・少しは動く
- ・支えれば使える
- ・時間をかければ可能
なケースでも、日常生活では使われなくなることがあります。
つまり、
「能力がゼロだから使わない」
だけではなく、
「使わないことで、さらに使えなくなる」
という悪循環が起きているのです。
なぜ脳は「使わない」と判断するのか?
脳には、
「効率を優先する」
という特徴があります。
例えば、
- ・麻痺していない側ならすぐできる
- ・麻痺側だと時間がかかる
- ・失敗が多い
となると、脳は自然に“楽な方法”を選びます。
これはある意味、正常な学習です。
しかし脳卒中後では、この効率化が過剰になることがあります。
すると、
- ・麻痺側の神経回路を使わない
- ・感覚入力が減る
- ・運動指令が減る
ことで、脳内ネットワークがさらに弱くなってしまいます。
脳では何が起きている?
脳には「可塑性(かそせい)」という性質があります。
これは、
“使う回路は強化され、使わない回路は弱くなる”
という脳の変化です。
つまり、
- ・麻痺していない側ばかり使う
- ・麻痺側を使わない
状態が続くと、脳はさらに麻痺していない側優位になっていきます。
逆に、麻痺側を適切に使う経験を積むことで、脳内ネットワークの再編成が促されることも分かっています。
これは脳卒中リハビリの重要な考え方のひとつです。
実際によくある学習性不使用
上肢の場合
特に多いのが手です。
例えば、
- ・麻痺手を膝の上に置いたまま
- ・服を着る時に使わない
- ・コップを持たない
- ・支えるだけでも使わない
などがあります。
最初は「難しいから」だったとしても、徐々に脳が“使わない状態”を学習していきます。
歩行の場合
足でも同じことが起こります。
- ・麻痺側へ体重を乗せない
- ・麻痺していない側ばかりで踏ん張る
- ・麻痺足を引きずる
- ・怖くて使えない
こうした状態が続くと、
- ・バランス低下
- ・歩行効率低下
- ・転倒リスク増加
につながることがあります。
「頑張って使えばいい」ではない
ここで大切なのは、
“無理に使えばいい”
わけではないことです。
例えば、
- ・強い痛み
- ・痙縮(けいしゅく)
- ・肩関節不安定性
- ・疲労
- ・感覚障害
がある状態で無理に使うと、逆効果になることもあります。
重要なのは、
- ・適切な難易度
- ・成功体験
- ・安全性
- ・感覚入力
を伴いながら使うことです。
リハビリで改善できるのか?
結論から言えば、改善できる可能性はあります。
実際、学習性不使用に対して有名なのが、
CI療法(Constraint-Induced Movement Therapy)
です。
これは、
- ・麻痺していない側を制限し
- ・麻痺側を積極的に使う
ことで、麻痺側の使用を増やす治療法です。
Taubらの研究では、CI療法によって慢性期脳卒中患者の上肢機能改善が報告されています。
つまり、
「使わないことで低下した機能」が、再学習によって改善する可能性があるのです。
リハビリで重要なこと
① 「使える経験」を増やす
脳は成功体験を学習します。
そのため、
- ・少しでもできた
- ・支えながらできた
- ・実際の生活で使えた
という経験が非常に重要です。
② 感覚入力を増やす
脳卒中後は、
- ・触覚低下
- ・位置感覚低下
- ・身体認識低下
が起きることがあります。
すると脳が麻痺側を認識しづらくなります。
そのため、
- ・荷重
- ・触覚刺激
- ・ミラー療法
- ・両手動作
などによって、感覚入力を増やすことも重要になります。
③ 「生活の中で使う」
ただ訓練室で動かすだけではなく、
- ・コップを持つ
- ・洗顔する
- ・支える
- ・テーブルに手を置く
など、“実生活で使う”ことが脳学習には非常に大切です。
脳は「意味のある活動」を学習しやすいからです。
「もう慢性期だから」は本当?
以前は、
「脳卒中の回復は6か月まで」
と言われることもありました。
しかし現在では、慢性期でも脳可塑性は存在し、適切な介入によって改善が起こる可能性があることが分かっています。
特に、
- ・反復練習
- ・課題指向型訓練
- ・CI療法
- ・感覚入力
などは、慢性期でも有効性が報告されています。
つまり、
“使わなくなった状態”
に対して、
“再び使う経験を積む”
ことが重要なのです。
学習性不使用が進むとどうなる?
麻痺側を使わない状態が長く続くと、
- ・関節拘縮
- ・筋力低下
- ・感覚低下
- ・姿勢崩れ
- ・痛み
- ・肩手症候群
などにつながることがあります。
さらに、
「どうせ使えない」
という心理的な諦めも起こりやすくなります。
これが活動量低下や生活範囲縮小につながるケースも少なくありません。
「使うこと」は脳への刺激
リハビリでは、
「筋肉を鍛える」
だけではなく、
“脳へ適切な刺激を送る”
ことが非常に重要です。
つまり麻痺側を使うことは、
- ・神経回路活性化
- ・感覚入力
- ・運動学習
- ・脳再編成
につながる可能性があります。
だからこそ、
「少しでも使う経験」
が大切なのです。

まとめ
学習性不使用とは、
「麻痺側を使わない経験を繰り返すことで、さらに使えなくなる現象」
です。
脳卒中後では、
- ・動かしにくい
- ・失敗する
- ・時間がかかる
などの経験から、脳が“使わない”ことを学習してしまいます。
しかし脳には可塑性があり、
- ・適切な練習
- ・感覚入力
- ・成功体験
- ・日常生活での使用
によって、再学習が起こる可能性があります。
重要なのは、
「無理に頑張る」ではなく、
“適切に使う経験を積み重ねること”
です。
当施設では
当施設では、脳卒中後の学習性不使用に対して、
- ・麻痺側の使い方評価
- ・上肢・歩行練習
- ・感覚入力アプローチ
- ・姿勢・体幹調整
- ・日常生活動作練習
- ・自主トレーニング指導
などを行い、“生活の中で麻痺側を使える身体づくり”をサポートしています。
「もう使えない」と諦める前に、
まずは今の身体の状態を一緒に確認してみませんか?
退院後や慢性期でも、身体が変化する可能性はあります。
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