「脳卒中を発症してから半年が経ちました。もう回復しないのでしょうか?」
「退院してからリハビリの機会が減ったけれど、今からでも良くなりますか?」
「発症から1年以上経っているので、もう諦めたほうがいいですか?」
脳卒中後の方やご家族から、このような相談を受けることがあります。
結論から言うと、
「発症から半年を過ぎたら回復しない」という考え方は正確ではありません。
一方で、
「半年を過ぎても、発症直後と同じようなスピードで回復する」わけでもありません。
ここは非常に重要です。
脳卒中後は、一般的に発症から数か月の間に大きな機能改善が起こりやすい一方、その後も適切なリハビリや運動、生活の中での練習によって、運動機能や歩行、日常生活動作などが改善する可能性があります。
2023年のNational Clinical Guideline for Strokeでも、脳卒中後はどの時期でもリハビリによる利益を得る可能性があるとされ、リハビリは「発症から何か月まで」と時間だけで区切るのではなく、本人のニーズや目標に応じて行うことが推奨されています。
では、実際の研究ではどうなのでしょうか?
この記事では、「半年以降も回復が期待できる」という研究と、「半年以降の回復には限界や不確実性がある」という研究の両方を紹介しながら、現在の脳卒中リハビリの考え方を作業療法士の視点から解説します。
「半年が回復の期限」というわけではない
まず知っておきたいのが、
6か月=回復の終了
ではないということです。
脳卒中後の回復は、発症直後から一定のスピードで進むわけではありません。
一般的には、
発症直後〜数週間
↓
数か月
↓
半年以降
と時間が経つにつれて、自然回復による変化は小さくなっていく傾向があります。
そのため、
「半年くらいまでが特に重要」
という説明がされることがあります。
これは完全に間違いではありません。
しかし、
「半年を過ぎたら脳は変化しない」
という意味ではありません。
実際、2023年の英国National Clinical Guideline for Strokeでは、6か月以降にも一部の人で、コミュニケーション、腕の機能、歩行、体力、ADLなどの改善が得られる可能性を示す研究があるとしています。
【肯定研究】半年以降でも改善を示す研究はある
ここからは、研究データを見ていきましょう。
①慢性期の上肢リハビリでも改善が報告されている
2016年に発表された研究では、発症から6か月以上経過した脳卒中患者85人を対象に、課題特異的な上肢トレーニングが行われました。
参加者は、1時間の練習を週4日、8週間行い、練習量の違いによる効果が検討されています。
その結果、一部のグループではAction Research Arm Test(ARAT)の改善が認められました。
ただし、研究者らは、
全体として治療効果は小さく、練習量が増えれば増えるほど比例して改善するという明確な用量反応関係は確認できなかった
と結論づけています。
ここが非常に大切です。
「半年以降でも改善した」
という肯定的な結果がある一方、
「たくさん練習すればするほど必ず良くなる」
とは言えません。
②2024年の研究でも慢性期の上肢リハビリに効果
2024年に発表された上肢リハビリに関するシステマティックレビューでは、リハビリの量や方法と上肢機能の回復との関係が検討されました。
この研究では、30時間を超えるリハビリを行った研究で、小~大程度の効果が認められたと報告されています。
さらに注目されるのが、
課題指向型のリハビリが慢性期でも比較的大きな効果と関連していた
という点です。
もちろん、これは
「30時間やれば必ず回復する」
という意味ではありません。
研究ごとに対象者やリハビリ内容が異なるため、個人にそのまま当てはめることはできません。
しかし、
「発症から半年以上経った人には、リハビリの意味がない」
という考え方を支持する結果ではありません。
③歩行についても慢性期の研究がある
歩行についても、半年以降のリハビリが研究されています。
2023年に発表されたランダム化比較試験では、発症から6か月以上経過し、歩行能力に制限が残っている脳卒中患者を対象に、歩行トレーニングの強度と期間が検討されました。
参加者は、
45分間の歩行練習を週3回、12週間
行っています。
高強度インターバルトレーニングと中強度の有酸素トレーニングが比較され、慢性期でも歩行能力を改善するためのトレーニングが研究対象となっています。
つまり、
「半年を過ぎたら歩行機能は変わらない」
とも言い切れません。
【否定研究】では「半年以降も必ず回復する」のか?
ここで反対側の研究も見ておきましょう。
脳卒中リハビリの記事では、
「半年以降も回復できます!」
と強調されることがあります。
しかし、研究を丁寧に見ると、
「誰でも大きく改善する」
という結果ではありません。
①半年以降の改善は「自然回復」とは区別する必要がある
発症から半年程度までは、脳卒中によるダメージからの自然回復や身体機能の回復が大きく関係します。
一方、半年以降になると、自然にどんどん元に戻るというより、
練習・経験・環境・身体活動などによって動作を再学習していく
という意味合いがより重要になります。
そのため、
「何もしなくても時間が経てば回復する」
とは考えないほうがよいでしょう。
②「練習量を増やせば必ず改善する」わけでもない
先ほど紹介した2016年の研究では、6か月以上経過した人に対して、3,200回、6,400回、9,600回など異なる回数の課題特異的練習が行われました。
しかし、
練習量が増えるほど改善が比例して大きくなるという明確な結果は得られませんでした。
研究全体の治療効果も小さいものでした。
つまり、
「とにかく大量に練習すればいい」
という考え方にも限界があります。
③以前の研究では「半年以降のグループ差が明確ではない」結果も
2002年のランダム化比較試験では、101人の脳卒中患者を対象に、上肢・下肢の集中的なトレーニングと対照群が比較されました。
6か月以降については、Barthel Index、歩行能力、ARATなど多くの評価項目で、グループ間の統計的に有意な差は確認されませんでした。
一方で、個人レベルでは、6か月以降にも上肢機能や下肢機能が改善した人・悪化した人が存在しました。
研究者らは、平均的には機能が維持される一方、個人によっては6か月以降も改善・悪化が起こり得るとしています。
これは非常に興味深い結果です。
つまり、
「半年以降は誰も改善しない」わけでもなく、
「半年以降なら誰でも改善する」わけでもない。
ということです。
では、半年以降に回復しやすい人とは?
ここで、
「じゃあ、自分は良くなる可能性があるの?」
という疑問が出てきます。
実際には、個人差がかなり大きいため、
「この条件なら必ず回復する」
という基準はありません。
ただし、リハビリの目標を考えるうえで、
- ・現在どの程度動かせるか
- ・指を分離して動かせるか
- ・感覚が残っているか
- ・立位・歩行がどの程度できるか
- ・認知機能に問題がないか
- ・注意・半側空間無視などがあるか
- ・疲労や痛みが強くないか
- ・実際にどれくらい練習できるか
- ・生活の中で麻痺側を使う機会があるか
などは重要です。
2024年のシステマティックレビューでも、皮質脊髄路の状態や残存している上肢運動機能などが、運動回復と関連する要因として報告されています。
「少し動くけれど使えない」はチャンスになることも
作業療法士として特に注目したいのが、
「少し動くけれど、生活では使っていない」
というケースです。
例えば、
「肩は上がる」
「肘も曲がる」
「手首も少し動く」
「指も少し開く」
でも、
「結局、右手は使わず左手ばかり使っている」
ということがあります。
この場合、
身体機能として残っている能力を、生活動作につなげる
ことが重要になります。
例えば、
食事
コップを持つ
↓
食器を押さえる
↓
箸やスプーンを操作する
着替え
袖に手を入れる
↓
衣服を押さえる
↓
ボタンを操作する
家事
タオルを持つ
↓
食材を押さえる
↓
調理道具を操作する
というように、
「できる動き」を「生活で使う動き」に変えていく
のです。
最新のリハビリでは「機能」だけを追いかけない
現在の脳卒中リハビリでは、
「筋力が何点上がった」
「関節が何度動いた」
という身体機能だけではなく、
実際の活動や生活参加につながっているか
も重要視されます。
例えば、
「手が10度多く上がった」
より、
「自分でシャツを着られるようになった」
「食事で麻痺側の手を使えるようになった」
「料理を再開できた」
という変化のほうが、その人の生活にとって大きな意味を持つことがあります。
課題特異的練習が重要
現在の脳卒中リハビリで重要な考え方の一つが、
課題特異的練習(task-specific training)
です。
これは簡単にいうと、
「実際にできるようになりたい動作を練習する」
という考え方です。
例えば、
「手を使えるようになりたい」
だけではなく、
「箸を使いたい」
なら箸につながる練習を、
「着替えたい」
なら着替えにつながる練習を、
「料理したい」
なら料理につながる練習を行います。
米国心臓協会・米国脳卒中協会のガイドラインでも、上肢について、個人の能力に合わせて難易度を調整し、機能的・目的指向の課題を繰り返し練習することが推奨されています。
「半年以降」はリハビリのやり方を変える時期でもある
発症直後と半年以降では、リハビリの目的が変わってくることがあります。
発症直後
- ・麻痺の回復
- ・基本動作
- ・ベッドからの起き上がり
- ・立位
- ・歩行
- ・基本的ADL
などが中心になります。
一方、半年以降では、
- ・仕事
- ・家事
- ・外出
- ・趣味
- ・スポーツ
- ・運転
- ・調理
- ・着替え
- ・食事
- ・地域活動
など、
「その人らしい生活をどう取り戻すか」
という視点がより重要になります。
だからこそ、半年を過ぎたからリハビリ終了ではなく、
「今の生活で何に困っているのか?」
を改めて見直すことが大切です。
6か月時点で「もう回復しない」と決めつけない
2023年のNational Clinical Guideline for Strokeでは、6か月時点でリハビリを受けていない人についても、継続しているニーズや目標がないかを確認し、必要であれば再び脳卒中リハビリにつなげることが推奨されています。
さらに、脳卒中後のリハビリは時間で一律に終了させるのではなく、ニーズに応じて継続する「needs-led(ニーズ主導)」の考え方が示されています。
これは非常に重要な考え方です。
「半年過ぎたからダメ」ではなく「今の課題」を見る
例えば発症から1年経った方でも、
「歩けるけれど外出が怖い」
「手は動くけれど料理ができない」
「着替えはできるけれど時間がかかる」
「箸が使えない」
「階段が怖い」
という具体的な課題が残っていることがあります。
この場合、
「もう回復期ではないから終了」
ではなく、
「その課題をどう改善するか?」
を考えることができます。
「回復」と「代償」を組み合わせる
半年以降のリハビリでは、
回復だけを目指すのではなく、代償方法も組み合わせる
ことが重要です。
例えば、
「右手で箸を使えるようになりたい」
という方の場合、
回復を目指す
- ・指の動きを改善する
- ・手首を安定させる
- ・感覚を高める
- ・物をつまむ練習
- ・両手動作を練習する
一方で、
代償方法
- ・補助箸
- ・スプーン
- ・食器の工夫
- ・麻痺側を支える手として使う
なども検討します。
これは、
「もう治らないから諦める」
ということではありません。
今できる方法で生活を取り戻しながら、同時に機能改善を目指す考え方です。
発症から半年以降のリハビリで大切な5つのこと
①「何を改善したいのか」を明確にする
「手を良くしたい」ではなく、
「箸を使いたい」
「シャツを着たい」
「料理をしたい」
など、具体的にします。
②現在の能力を正確に評価する
「動かない」と思っていても、実際には、
「肩は動く」
「肘は動く」
「手首は少し動く」
「指は少し伸びる」
ということがあります。
残っている能力を確認することが重要です。
③難しすぎない課題から始める
最初から難しい動作を行うのではなく、
「少し頑張れば成功できる」
程度から始めます。
④生活の中で使う
リハビリの時間だけでなく、
- ・食事
- ・着替え
- ・家事
- ・スマートフォン
- ・趣味
など、実際の生活で使う機会を増やします。
⑤「変化」を定期的に確認する
半年以降は変化がゆっくりになることがあります。
だからこそ、
「以前より少し早くできた」
「前より疲れにくい」
「一人でできるようになった」
など、小さな変化を確認することが重要です。
まとめ|発症から半年を過ぎても、回復の可能性はある
今回の記事のポイントをまとめます。
発症から半年を過ぎても、脳卒中後の回復が完全に止まるわけではありません。
研究では、慢性期の上肢リハビリや歩行トレーニングによって改善がみられる人がいることが報告されています。
一方で、
「半年以降なら誰でも大きく改善する」
というわけでもありません。
半年以降の研究では効果が小さいものや、介入群と対照群の差が明確ではないものもあります。
つまり、最も現実的な考え方は、
「半年を過ぎたら終わり」でもなく、
「半年以降でも必ず元通り」でもない。
ということです。
大切なのは、
「今の自分に何が残っていて、何ができるようになりたいのか?」
を確認すること。
そして、
残っている能力を実際の生活動作につなげること
です。
2023年の脳卒中ガイドラインでも、脳卒中後はどの時期でもリハビリから利益を得る可能性があるとされ、6か月以降も本人のニーズや目標に応じたリハビリが推奨されています。
「もう半年だから……」と諦める前に、今の身体機能と生活の課題を一度見直してみることをおすすめします。
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ということです。
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引用文献
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