脳卒中後の手のリハビリ|何から始めればいい?作業療法士が解説

「脳卒中になってから、手が思うように動かない」

「リハビリをしているけれど、何から始めればいいのか分からない」

「指を動かしたいけれど、練習方法が分からない」

「手は少し動くようになったけれど、実際の生活では使えていない」

このようなお悩みはありませんか?

脳卒中後の手の麻痺では、「とにかく手を動かす」だけでは十分ではありません。

手を動かすためには、肩・肘・手首・指の動きだけでなく、感覚、姿勢、視覚、注意、体幹の安定性など、さまざまな要素が関係しています。

さらに、

「手が動くようになった」=「生活の中で手を使えるようになった」

とは限りません。

そこで重要になるのが、現在の状態を確認し、「何に困っているのか」を明確にしてからリハビリを進めることです。

この記事では、脳卒中後の手のリハビリを「何から始めればいいのか」という視点から、作業療法士が分かりやすく解説します。


まず知っておきたい|脳卒中後の「手が動かない」は人によって違う

「手が動かない」と一言で言っても、実際にはさまざまな状態があります。

例えば、

  • ・肩は動くけれど指が動かない
  • ・肘は曲げられるけれど伸ばしにくい
  • ・手を握ることはできるけれど開けない
  • ・指を一本ずつ動かせない
  • ・物をつかめない
  • ・物を持っている感覚が分からない
  • ・手に力が入りすぎる
  • ・手が痛い
  • ・手を使うと肩が痛くなる
  • ・手は動くのに生活では使っていない

などがあります。

つまり、最初に必要なのは、

「どこが動かないのか?」

だけではありません。

「なぜ動かしにくいのか?」

を考えることです。

英国のNational Clinical Guideline for Strokeでも、脳卒中後の上肢について、運動機能だけでなく、感覚障害、半側空間無視、学習性不使用、痙縮などを含めて考える必要があるとされています。


手のリハビリは「手」だけを見ない

例えば「指が動かない」という方がいたとします。

指だけを一生懸命動かせばいいのでしょうか?

必ずしもそうではありません。

指を動かすためには、

体幹

前腕

手首

という身体全体の関係があります。

例えば、体幹が不安定な状態で手を細かく動かそうとしても、うまく操作できないことがあります。

また、肩が過剰に緊張していることで、肘や手首、指の動きに影響している場合もあります。

そのため、手のリハビリでは、

「指だけを動かす」ではなく、「手を使いやすい身体の状態をつくる」

という視点が重要です。


何から始めればいい?まずは「今できること」を確認する

手のリハビリを始めるとき、最初に確認したいのが、

「現在どこまでできるのか」

です。

例えば、

  • ・腕を前に上げられるか
  • ・横に上げられるか
  • ・痛みはないか

  • ・曲げられるか
  • ・伸ばせるか

手首

  • ・手首を反らせるか
  • ・手首を曲げられるか

  • ・指を開けるか
  • ・指を閉じられるか
  • ・一本ずつ動かせるか

  • ・手のひらを上に向けられるか
  • ・物をつかめるか
  • ・つかんだ物を離せるか

といったことを確認します。

ここで重要なのは、

「できないこと」だけを見るのではなく、「できること」を見つけることです。

例えば、

「指は動かない」

と思っていても、

「手首を少し動かすと親指が動く」

「大きな物なら握れる」

「テーブルの上なら手を前に出せる」

など、残っている能力が見つかることがあります。

その「残っている能力」を利用して、次の練習につなげていきます。


STEP1|まずは「手を動かす」ための土台を作る

脳卒中後の手のリハビリで、いきなり細かい指の運動をする必要はありません。

状態によっては、

姿勢を整える

肩・肘を動かす

手首を動かす

手を開く・閉じる

というように、段階的に進めます。

例えば、腕を前に伸ばす動作が難しい場合、

「指を動かす練習」だけを行っても、生活で手を使うところまでつながらない可能性があります。

その場合は、

腕を適切な位置まで運ぶ

というところから練習することもあります。


STEP2|「指を動かす」ことだけを目的にしない

指の運動はもちろん重要です。

しかし、最終的な目的は、

「指が動くこと」ではなく、「指を使って何かができること」

です。

例えば、

  • ・ボタンを留める
  • ・箸を使う
  • ・ペットボトルを持つ
  • ・財布から物を取り出す
  • ・スマートフォンを操作する
  • ・洗濯物をたたむ

などです。

米国心臓協会・米国脳卒中協会のガイドラインでは、脳卒中後の上肢リハビリについて、**個人の能力に合わせて課題の難易度を調整し、機能的な課題を繰り返し練習する「課題特異的練習」**が推奨されています。

つまり、

「指を動かす練習」→「物を操作する練習」→「実際の生活動作」

につなげていくことが大切です。


STEP3|物に触れる・つかむ練習へ

手が少し動くようになってきたら、次の段階として物を使った練習を考えます。

例えば、

  • ・タオル
  • ・コップ
  • ・ボール
  • ・ペットボトル
  • ・箱
  • ・スポンジ

などです。

ここでも重要なのは、

「何でもいいから握る」

ではありません。

最終的な目標に合わせます。

例えば、

「コップを自分で持って飲みたい」

なら、

腕を伸ばす

手をコップに近づける

指を開く

コップを握る

持ち上げる

口まで運ぶ

という一連の動作を考えます。

このように、実際の生活動作に必要な要素を分解して練習していきます。


研究でも「実際の課題を繰り返す」ことが重視されている

脳卒中後の上肢リハビリについては、多くの研究が行われています。

Cochraneレビューでは、脳卒中後の上肢・手の機能に対するさまざまなリハビリ方法が検討され、課題を繰り返し練習する方法、Constraint-Induced Movement Therapy(CIMT)、ミラーセラピー、メンタルプラクティス、感覚障害への介入、バーチャルリアリティなどに一定の有効性を示す中等度の質のエビデンスがあるとまとめられています。

また、反復的な課題練習について33研究・1,853人を対象としたCochraneレビューでは、通常のケアなどと比較して、

  • ・腕の機能
  • ・手の機能
  • ・歩行距離
  • ・歩行能力

などに小さな改善が認められました。

腕の機能についてはSMD 0.25(95%CI 0.01–0.49)、手の機能については**SMD 0.25(95%CI 0.00–0.51)**でした。なお、腕・手の機能に関するエビデンスの質は低いと評価されており、結果を過度に一般化することには注意が必要です。

つまり、

「何度も練習すれば必ず元通りになる」

ということではありません。

しかし、

「実際に使う動作を繰り返し練習することには、一定の根拠がある」

と考えられます。


STEP4|「手を開く」練習も重要

脳卒中後には、

「手を握ることはできるけれど、開けない」

という状態になる方もいます。

これは生活上、大きな問題になります。

例えば、

  • ・コップを離せない
  • ・物を置けない
  • ・手を洗いにくい
  • ・衣服に手を入れにくい
  • ・手をテーブルにつきにくい

などにつながります。

この場合も、

「指を無理やり開く」

だけではなく、

  • ・手首の位置
  • ・前腕の向き
  • ・肩・肘の位置
  • ・手の緊張
  • ・感覚
  • ・物を握る・離す経験

などを総合的に確認します。


STEP5|「物をつかめない」なら、つかむ前の段階を見る

物をつかめない場合も同様です。

例えば、

手を物に近づけられない

のであれば、まずリーチ動作の練習が必要かもしれません。

手を物に近づけられるけれど、指を開けない

なら、指を開く能力が課題かもしれません。

握れるけれど離せない

なら、リリース動作が課題かもしれません。

このように、

「物をつかめない」

という結果だけを見るのではなく、

「どの部分で動作が止まっているのか?」

を確認することが重要です。


STEP6|感覚が戻らない場合は「感じる」こともリハビリする

脳卒中後の手の問題では、運動だけでなく感覚障害も非常に重要です。

例えば、

「手を触られても分かりにくい」

「物を持っている感覚が弱い」

「どのくらい力を入れればいいか分からない」

という場合があります。

この状態では、目で見ながらならできても、視線を外すと急に難しくなることがあります。

AHA/ASAのガイドラインでも、脳卒中後の感覚障害に対して感覚識別を改善するための感覚再教育を検討してよいとされています。

そのため、

「手が動かないから筋トレ」

だけではなく、

「手がどう感じているのか」

も評価する必要があります。


STEP7|「麻痺手を使う」ことまで考える

ここが脳卒中後の手のリハビリで非常に重要なポイントです。

例えば、

「リハビリ室では右手が動く」

「でも家では左手ばかり使う」

ということがあります。

なぜでしょうか?

答えは単純で、

左手を使ったほうが早いから

です。

脳卒中後は、麻痺側の手が使いにくいため、非麻痺側の手で代償することが自然に起こります。

しかし、麻痺側を使わない状態が長く続くと、**「学習性不使用(learned non-use)」**という考え方で説明されるような、麻痺側を使わない習慣が形成されることがあります。

CIMTは、このような問題に対して、能力のある対象者の麻痺側上肢をより積極的に使用することを促す方法の一つです。

Cochraneレビューでは、CIMTは通常の治療などと比較して腕の運動機能を改善する可能性が示された一方、日常生活上の障害を明確に改善する効果については説得力のある証拠が不足していました。

つまり、

「麻痺手を使えばいい」

だけではなく、

「その人が安全に、実際の生活で使える方法を考える」

ことが重要です。


「麻痺手を使う」=麻痺手だけで全部やる、ではない

ここは誤解されやすいところです。

麻痺手を使うというのは、

「非麻痺側の手を一切使わない」

という意味ではありません。

例えば料理なら、

麻痺側の手でボウルを押さえる

非麻痺側の手で混ぜる

という両手動作も立派な麻痺手の使用です。

着替えなら、

麻痺側の腕を袖に入れる

非麻痺側の手で衣服を操作する

という方法があります。

つまり、

「麻痺側を生活の中で役割のある手として使う」

ことが大切です。


最終的には「生活で使える手」を目指す

脳卒中後の手のリハビリで、最も大切にしてほしいのが、

「手を動かすこと」をゴールにしない

という考え方です。

例えば、

目標

「手をもっと動かしたい」

よりも、

具体的な目標

「もう一度箸を使いたい」

「一人で着替えたい」

「料理をしたい」

「スマートフォンを使いたい」

「趣味を再開したい」

としたほうが、リハビリの方向性が明確になります。

AHA/ASAのガイドラインでも、ADLやIADLについて、個人のニーズに合わせた訓練を行うことが推奨されています。


「何から始めればいい?」を8段階で整理

ここまでを簡単にまとめると、次のようになります。

STEP1

現在の状態を確認する

STEP2

姿勢・肩・肘・手首など土台を整える

STEP3

手・指を動かす

STEP4

物に触れる・つかむ・離す

STEP5

実際の課題を繰り返す

STEP6

箸・着替え・食事など具体的な生活動作につなげる

STEP7

日常生活の中で麻痺手を使う

STEP8

できること・難しいことを再評価して練習内容を調整する

この流れは全員にそのまま当てはまるわけではありません。

麻痺の程度や感覚障害、痛み、痙縮、認知機能などによって順番は変わります。

だからこそ、個別評価が重要になります。


「手のリハビリ」シリーズ

今回の記事は、脳卒中後の手のリハビリを全体的に理解するための内容となります。さらに具体的な悩みを解説しているブログを参照ください。


「脳卒中後に手が動かない」と悩んでいる方へ

「手をつかいやすくするにはどうすればいいの?」

という疑問がある方は、こちらの記事へ。

👉 関連記事:麻痺した手を“使いやすくする”考え方|「動くようにする」だけでなく、「生活で使えるようにする」ことが大切です

この記事では、生活で手を使えるようにを考えるときに確認したいポイントを詳しく解説します。


「麻痺した手が少し動く」方へ

麻痺した手が少し動く

「でも細かい動きはできない」

という方もいます。

👉 関連記事:麻痺した手が少しずつ動き始める人に共通すること|脳卒中後の手の回復を促すポイント

この記事では、麻痺した手がすこしずつ改善していく共通点を解説しています。


「手が開かない」方へ

「握ることはできるけれど、手を開けない」という場合は、

👉 関連記事:脳卒中後に手が開かない原因とリハビリ|握った手を開くために

へ。

こちらの記事は「握る」だけではなく、物を離す・手を広げることの重要性を詳しく解説する記事です。


「物をつかめない」方へ

物に手を伸ばせても、うまくつかめない場合があります。

👉 関連記事:脳卒中後に物をつかめない原因|リーチ・把持・感覚を解説

こちらの記事は、「手を伸ばす」「指を開く」「つかむ」「力を調整する」という一連の動作を詳しく解説します。


「手の感覚が戻らない」方へ

手の麻痺では、運動だけでなく感覚も重要です。

👉 関連記事:手の感覚が鈍い・しびれる原因とリハビリの進め方

「触った感じが分からない」「物を持っている感覚が弱い」といった方に読んでもらいたい記事です。


「箸が使えない」方へ

「手は少し動くけれど、箸が使えない」という場合は、

👉 関連記事:箸が使えない…食事動作を改善する方法

箸を使うには、指だけでなく、手首・感覚・姿勢・目と手の協調などが必要です。実際の箸操作につなげる方法を詳しく解説しています。


「肩が上がらない」方へ

手を使いたくても、

「腕が上がらない」

「肩が痛い」

という場合があります。

👉 関連記事:脳卒中後に肩が上がらない原因とリハビリ|安全に腕を動かすポイント

へ。

肩だけを無理に動かすのではなく、肩甲帯や体幹、痛みなども含めて考える記事にすると、親記事とのつながりが良くなります。


「学習性不使用」が気になる方へ

「手は少し動くのに、普段ほとんど使っていない」という方には、

👉 関連記事:脳卒中後の学習性不使用とは?麻痺した手を使うためのリハビリ

へ。

「使えないから使わない」だけでなく、使わないことが習慣になっていないかという視点を解説します。


「自主訓練方法」が気になる方へ

脳卒中の回復には、自主訓練も不可欠です。そのため、
👉 関連記事:手の麻痺を改善する自主訓練10選

脳卒中後の手の麻痺を改善するための自主トレーニングを作業療法士が解説します。安全に取り組むポイントや注意点、おすすめの練習方法10選を紹介。自宅で継続できるリハビリのコツも詳しく説明します。


「日常生活で麻痺手を使いたい」方へ

最終的には、

リハビリ室で手が動くことではなく、生活で使えること

が重要です。

👉 関連記事:脳卒中後の日常生活で麻痺手を使うコツ|無理なく使用頻度を増やす方法

へつなげます。

食事・着替え・家事・スマートフォン・趣味など、具体的な生活場面で麻痺手を使う方法を解説する記事です。


まとめ|脳卒中後の手のリハビリは「何から始めるか」が重要

脳卒中後に手が動かなくなると、

「とにかく手を動かさなければ」

と思ってしまうかもしれません。

しかし、重要なのは闇雲に運動することではありません。

まず、

①現在の状態を知る

②どこが問題なのかを整理する

③残っている能力を活かす

④目的のある動作を練習する

⑤繰り返し練習する

⑥実際の生活で麻痺手を使う

という流れで考えてみましょう。

現在のガイドラインでも、上肢に動きが残っている脳卒中後の方には、機能的・課題特異的な動作を高い反復回数で練習することが主要なリハビリ方法として推奨されています。

そして何より、

「手を動かすこと」ではなく「手を使って何がしたいのか」

を考えることが大切です。

「箸をもう一度使いたい」

「一人で着替えたい」

「料理をしたい」

「家事を再開したい」

「趣味をもう一度楽しみたい」

こうした具体的な目標が、リハビリの方向性を決める重要な手がかりになります。


愛知県一宮市で脳卒中後の手のリハビリなら|リハビリスタジオ一宮

「脳卒中後、手が思うように動かない」

「指をもっと動かせるようになりたい」

「麻痺した手を生活で使えるようになりたい」

「リハビリでは動くけれど、自宅では手を使えていない」

「箸・着替え・家事など、具体的な動作をもう一度できるようになりたい」

このようなお悩みがある方は、リハビリスタジオ一宮へご相談ください。

リハビリスタジオ一宮では、作業療法士がマンツーマンで、脳卒中後の手・腕の状態を確認しながら、**「実際の生活で何ができるようになりたいのか」**を大切にした自費リハビリを行っています。

手の動きだけではなく、

  • ・肩・肘・手首・指の動き
  • ・姿勢や体幹
  • ・感覚
  • ・手と目の協調
  • ・物をつかむ・離す動作
  • ・両手動作
  • ・食事
  • ・着替え
  • ・家事
  • ・趣味

などを含めて、現在の課題を整理します。

「何から始めればいいのか分からない」

という段階でも構いません。

今できることを確認し、そこから次の一歩を一緒に考えていきましょう。

リハビリスタジオ一宮

愛知県一宮市の自費リハビリ施設

  • ・作業療法士によるマンツーマン対応
  • ・脳卒中後遺症を中心に対応
  • ・手・腕のリハビリ
  • ・日常生活動作のリハビリ
  • ・初回体験 5,000円 施術60分+カウンセリング15分

「もう少し手を使えるようになりたい」

「できることを増やしたい」

という目標がある方は、まず現在の状態を整理するところから始めてみませんか?

お気軽にご相談ください。

ご予約・ご相談はこちらから
事前決済がご希望の方はこちらから


引用文献

  1. Winstein, C. J., Stein, J., Arena, R., et al. (2016). Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery. Stroke, 47(6), e98–e169.
  2. Pollock, A., Farmer, S. E., Brady, M. C., et al. (2014). Interventions for improving upper limb function after stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews, CD010820.
  3. French, B., Thomas, L. H., Leathley, M. J., et al. (2016). Repetitive task training for improving functional ability after stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews, CD006073.
  4. Corbetta, D., Sirtori, V., Castellini, G., Moja, L., & Gatti, R. (2015). Constraint-induced movement therapy for upper limb recovery after stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews, CD004433.
  5. Intercollegiate Stroke Working Party. (2023). National Clinical Guideline for Stroke.
  6. National Clinical Guideline for Stroke. (2023). Arm function.