脳卒中後のリハビリでは、「歩けるようになった」「手が動くようになった」という“能力の改善”に注目されることが多くあります。
もちろん、それはとても大切なことです。
しかし、実際の生活では「できる能力」があっても、“実際にはしていない”というケースが少なくありません。
例えば、
- ・リハビリ室では歩けるのに、自宅では車椅子中心
- ・麻痺した手を動かせるのに、日常では使っていない
- ・立ち上がれるのに、介助されることが増えている
このような状態は、リハビリの現場ではよく見られます。
ここで重要になるのが、
- ・「できるADL(can do ADL)」
- ・「しているADL(does do ADL)」
という考え方です。
今回は、この2つの違いと、なぜ“しているADL”が重要なのかについて、分かりやすく解説します。
ADLとは?
ADLとは、「Activities of Daily Living」の略で、日本語では「日常生活動作」と呼ばれます。
具体的には、
- ・起き上がる
- ・立つ
- ・歩く
- ・食事をする
- ・着替える
- ・トイレに行く
- ・入浴する
など、日常生活に必要な基本動作のことを指します。
リハビリでは、このADLを改善することが大きな目標になります。
“できるADL”とは?
“できるADL”とは、
「条件が整えば実行できる能力」
のことです。
例えば、
- ・リハビリ室では杖を使って歩ける
- ・声かけがあれば立ち上がれる
- ・セラピストが見守れば着替えられる
などが該当します。
つまり、「能力としては可能」という状態です。
これはリハビリ評価では非常に重要です。
身体機能の回復や運動学習によって、“できること”が増えることは回復の第一歩だからです。
“しているADL”とは?
一方、“しているADL”とは、
「実際の生活場面で普段から行っている動作」
を意味します。
例えば、
- ・家では怖くて歩いていない
- ・転倒が不安で家族が介助している
- ・麻痺側の手を全く使っていない
- ・時間がかかるため、家族が全部やってしまう
などです。
つまり、
“できる”と“実際に使っている”は別問題
なのです。
なぜ“しているADL”が重要なのか?
① 生活は“実際にしていること”で成り立つから
どれだけリハビリ室で上手に歩けても、家で歩いていなければ生活は変わりません。
逆に、
- ・自分で立つ
- ・自分でトイレに行く
- ・麻痺側の手を使う
といった行動が日常に定着すると、生活の質(QOL)は大きく変わります。
つまり、重要なのは、
「生活の中で実際に使えているか」
なのです。
② “していない”と能力は低下しやすい
人の身体は、“使わない機能”を徐々に失っていきます。
これを「廃用(disuse)」と呼びます。
例えば、
- ・歩けるのに歩かない
- ・立てるのに座ってばかり
- ・動かせる手を使わない
という状態が続くと、筋力低下だけでなく、
- ・バランス低下
- ・感覚低下
- ・動作のぎこちなさ
- ・自信の低下
なども起こりやすくなります。
つまり、
「できるけど、していない」
状態は、回復を止めてしまう可能性があるのです。
なぜ“できる”のに“しない”のか?
ここには様々な理由があります。
① 転倒への不安
特に脳卒中後は、
- ・バランス障害
- ・麻痺
- ・感覚障害
などにより、「転びそう」という恐怖が強くなります。
すると、
「歩けるけど怖いから歩かない」
という状態が起きやすくなります。
② 家族の負担軽減
ご家族としては、
「危ないから手伝った方が早い」
という気持ちがあります。
これはとても自然なことです。
しかし、介助が増えすぎると、
“本人が動く機会”
が減ってしまいます。
その結果、“しているADL”が低下していくことがあります。
③ 環境の問題
病院では歩けても、
- ・家が狭い
- ・段差が多い
- ・手すりがない
- ・動線が悪い
など、生活環境によって実行しづらいことがあります。
つまり、能力だけではなく、
「環境調整」
も非常に重要なのです。
リハビリで本当に見るべきこと
リハビリでは、
「この人は何ができるか」
だけではなく、
「実際の生活で何をしているか」
を見ることが大切です。
例えば、
- ・どこで困っているのか
- ・なぜ使えていないのか
- ・何が不安なのか
- ・どの環境で難しいのか
を分析することで、“生活につながるリハビリ”になります。
“しているADL”を増やすために大切なこと
小さな成功体験を積む
いきなり完璧を目指す必要はありません。
- ・自分で立つ
- ・コップを持つ
- ・数歩歩く
など、小さな「できた」を積み重ねることが重要です。
環境を整える
- ・手すり
- ・椅子の高さ
- ・動線
- ・転倒しにくい配置
などを調整するだけでも、“実際にできる行動”は増えます。
“麻痺側を使う経験”を増やす
脳卒中後は、どうしても使いやすい側ばかり使ってしまいます。
しかし、麻痺側も“生活の中で使う経験”を積むことが大切です。
「できるだけ使う」ではなく、
「自然に使える場面を作る」
という視点が重要になります。
まとめ
脳卒中後のリハビリでは、
- “できるADL”
- “しているADL”
の両方を見る必要があります。
本当に生活を変えるのは、
「生活の中で実際に行っている動作」
です。
だからこそリハビリでは、
- ・能力改善
- ・環境調整
- ・不安への配慮
- ・家族支援
- ・生活場面への介入
などを含めた“実生活に近い支援”が重要になります。
「できるようになった」だけではなく、
「生活で自然にできているか」
という視点を持つことで、リハビリはより生活につながるものになります。
最後に
当施設では“できるADL”を“しているADL”に繋げるため・姿勢制御
・運動麻痺の改善
・日常生活動作の改善
・自主訓練指導
・環境調整
など、全体の評価と介入を行っています。
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引用文献
- Fitts SS, Guthrie MR, et al. Effects of poststroke rehabilitation on functional outcomes. Stroke. 1997;28(12):2370-2375.
- Langhorne P, Bernhardt J, Kwakkel G. Stroke rehabilitation. Lancet. 2011;377(9778):1693-1702. doi:10.1016/S0140-6736(11)60325-5
- 上田敏. 『ADL―日常生活活動―』医学書院, 1992.
- 日本作業療法士協会. 『作業療法白書』.
- ICF 国際生活機能分類. World Health Organization による生活機能モデル.
- Bernhardt J, et al. Physical activity and rehabilitation after stroke. Stroke Research and Treatment. 2012. doi:10.1155/2012/501240