脳卒中後、手を前に伸ばそうとすると肩がすくむ・上がってしまうことはありませんか?その原因や代償動作が起こる仕組み、確認したいポイント、リハビリの考え方を作業療法士が解説します。
手を伸ばそうとすると肩が上がってしまうことはありませんか?
脳卒中後、麻痺した手を前に伸ばそうとしたときに、肩がすくんだり、首に近づくように肩が上がったりすることがあります。
例えば、次のような動作です。
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・テーブルの上のコップに手を伸ばすと肩が上がる
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・肘を伸ばそうとすると肩に力が入る
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・手を前に出すと首や肩まわりが緊張する
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・腕を伸ばすほど体が傾いたり、肩が前に出たりする
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・肩を下げようと意識すると、今度は手が前に出にくくなる
このような動きは、一般に「代償動作」と呼ばれます。
代償動作とは、本来必要な関節や筋肉の働きだけでは動作が難しいときに、別の身体の動きを利用して目的を達成しようとする動きです。
脳卒中後のリーチ動作では、肩の挙上や体幹の移動などが代償として現れることがあります。実際に、上肢動作の代償を調べたシステマティックレビューでは、肩の挙上や体幹の動きが代表的な代償パターンとして報告されています。
大切なのは、肩が上がることだけを見て「肩の力を抜けばよい」と考えないことです。なぜ肩を上げる必要が生じているのか、腕全体の動きを確認する必要があります。
そもそも、手を前に伸ばす動作には何が必要?
手を前に伸ばす動作は、肩だけで行っているわけではありません。
目標に向かって手を伸ばすためには、主に次のような働きが必要です。
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・肩関節を適切な方向へ動かす
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・肩甲骨が胸郭の上で滑らかに動く
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・肘を伸ばして手と目標の距離を調整する
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・手首や手指を目的に応じて準備する
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・体幹を安定させ、腕の動きを支える
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・目標との距離や位置を把握し、動きを調整する
これらが適切に組み合わさることで、肩だけに過剰な力を入れずに手を伸ばしやすくなります。
脳卒中後には、肩・肘の関節運動や筋活動の協調が難しくなり、動作が遅くなったり、軌道が滑らかでなくなったりすることがあります。リーチ動作を分析したメタ解析でも、脳卒中のある人では、動作時間の延長、体幹の移動量の増加、肘の伸展や肩の屈曲の制限などが報告されています。
肩が上がる代償動作が起こる5つの理由
1.肘を伸ばしにくく、肩を上げて距離を補っている
手を前に伸ばすとき、肘が十分に伸びないと、手先を目標まで運ぶことが難しくなります。
その際、肩をすくめたり、肩を前方へ動かしたりして、手先の位置を補おうとする場合があります。
例えば、テーブルの上にあるコップに手を伸ばす場面を考えてみましょう。
肘を伸ばして手を前に運ぶことが難しい場合、肩を上げることで手先を目標に近づけようとすることがあります。
この場合、肩だけを下げるように促しても、手が目標に届きにくくなる可能性があります。
肩の挙上だけでなく、肘がどの程度伸びているか、肩と肘がどのように連動しているかを確認することが重要です。
2.肩と肘を別々に動かしにくい
脳卒中後には、肩や肘など複数の関節を個別に調整することが難しくなる場合があります。
例えば、肘を伸ばそうとしたときに肩が外へ開く、あるいは肩を動かそうとすると肘が曲がるなど、複数の関節が一緒に動いてしまうことがあります。
これは、肩と肘の運動を必要に応じて組み合わせることが難しくなっている状態の一つと考えられます。
そのため、本人は「手を前に伸ばしたい」と思っていても、実際には肩をすくめる、肘が曲がる、腕全体が外へ開くといった動きが先に現れることがあります。
3.肩甲骨の動きや肩まわりの協調がうまくいかない
腕を上げたり前に伸ばしたりするときには、肩関節だけでなく肩甲骨も動きます。
肩甲骨は、胸郭の上を滑るように動きながら、腕の動きを支えています。
脳卒中後には、肩甲骨や肩関節周囲の動きが変化し、腕を動かすときに肩甲骨が過剰に持ち上がるようなパターンが見られる場合があります。
ただし、肩甲骨が動くこと自体は正常な運動にも含まれます。肩甲骨の動きをすべて止めればよいわけではありません。
確認したいのは、腕の動きに合わせて肩甲骨が適切に動いているか、肩の挙上が必要以上に強くなっていないかという点です。
4.体幹の安定性や姿勢が影響している
腕を伸ばす動作には、体幹の安定性も関係します。
座っている姿勢が不安定な場合や、体幹を十分に保ちにくい場合には、腕を動かす際に身体全体を使って補うことがあります。
例えば、手を前に伸ばすときに、
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・肩が上がる
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・体幹が後ろへ反る
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・身体が麻痺側または非麻痺側へ傾く
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・肩が前方へ突き出る
といった動きが同時に見られることがあります。
脳卒中後のリーチ動作に対する体幹制限訓練を調べたシステマティックレビューでは、体幹の代償的な移動を減らす効果が複数の研究で報告されています。一方で、体幹を制限した際の変化が、そのまま日常生活動作の改善を意味するとは限りません。動作の質と実際の生活での使いやすさを両方確認する必要があります。
5.目標に手を届かせるための「成功しやすい動き」になっている
代償動作は、単なる悪い癖ではありません。
動かしにくい身体で目的を達成するために、本人が身につけた工夫である場合があります。
肩を上げることで手が目標に届くなら、その動きは本人にとって成功しやすい方法になっている可能性があります。
そのため、肩を上げないように強く意識させるだけでは、動作そのものが難しくなることがあります。
リハビリでは、代償を一律に禁止するのではなく、どの程度の代償が必要なのか、どの動きなら本人が無理なく目的を達成できるのかを考えることが大切です。
肩が上がるときに確認したいポイント
肩が上がる原因を考えるときには、肩だけでなく、腕全体と体幹の動きを確認します。
| 確認するポイント | 観察したいこと |
|---|---|
| 肘の伸び | 手を前に出すとき、肘がどの程度伸びているか |
| 肩の動き | 肩がすくむタイミングや程度 |
| 肩甲骨 | 腕の動きに合わせて滑らかに動いているか |
| 体幹 | 後ろへ反る、横へ傾く、前へ倒れる動きがあるか |
| 手の位置 | 目標に近づくにつれて動きが変化するか |
| 動作の速さ | ゆっくり動かすと代償が減るか |
| 疲労 | 繰り返すうちに肩の挙上が強くなるか |
| 痛み | 肩や腕に痛みが出ていないか |
例えば、近い場所に手を伸ばすと肩が上がらないのに、遠くへ伸ばすと肩がすくむ場合、目標までの距離や肘の伸展が関係している可能性があります。
また、ゆっくり動かすと肩の挙上が減る場合には、動作の速さや運動の調整も確認したいポイントです。
代償動作を減らすためのリハビリの考え方
1.肩だけでなく、動作全体を評価する
肩が上がるからといって、肩周囲の筋肉だけを緩めたり、肩を下げる練習だけを行ったりすることが適切とは限りません。
肘の伸び、肩甲骨の動き、体幹の安定性、手先の位置などを含めて評価することが大切です。
2.無理なく動かせる範囲から練習する
最初から遠くの物に手を伸ばそうとすると、肩を上げたり体幹を傾けたりする代償が強くなる場合があります。
まずは、肩が過剰に上がらずに手を動かせる距離や高さを確認します。
その範囲で動作を繰り返し、少しずつ目標の位置や距離を調整していきます。
3.実際の生活動作につなげる
肩や肘の運動だけでなく、コップに手を伸ばす、タオルを取る、テーブル上の物を移動させるなど、生活で行う動作を練習に取り入れることも重要です。
ただし、代償を減らすことだけに集中して、動作の目的や安全性を失わないようにします。
研究では、体幹の代償を抑えた練習によって、体幹の移動や上肢の運動機能に変化が見られた報告があります。しかし、どの人にも同じ方法が適するわけではありません。本人の麻痺の程度、動作の目的、生活環境に合わせて練習内容を調整する必要があります。
4.痛みがある場合は、無理に動かさない
肩を上げる動きに痛みが伴う場合は、単なる代償動作として扱わず、肩関節や周囲の状態を確認する必要があります。
痛みが強い、急に動かしにくくなった、腕を動かすと強い痛みが出るといった場合は、自己判断で運動を続けず、医師や担当のリハビリ専門職に相談してください。
まとめ|肩が上がる理由を知ることが、動作を見直す第一歩
手を前に伸ばそうとすると肩が上がる背景には、肘を伸ばしにくいこと、肩と肘の協調、肩甲骨の動き、体幹の安定性、目標に手を届かせるための運動戦略など、複数の要因が関係している場合があります。
肩の挙上だけを無理に抑えるのではなく、なぜその動きが必要になっているのかを確認することが大切です。
リハビリでは、肩・肘・肩甲骨・体幹の動きを評価し、本人が無理なく手を伸ばせる条件を探しながら、日常生活で使う動作につなげていきます。
「手を伸ばすと肩がすくむ」
「肘を伸ばそうとすると肩に力が入る」
「麻痺した腕をもっと自然に使いたい」
このようなお悩みがある方は、動作のどこで代償が起きているのかを確認してみましょう。
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参考文献
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