物をつかんだ後に手を離せないのはなぜ?|脳卒中後の手の麻痺を作業療法士が解説

「コップを握ることはできるけれど、手を開いて置けない」 「タオルをつかむと、指が固まったようになって離せない」 「物を離そうとすると、手首や腕にも力が入ってしまう」

脳卒中後、手の麻痺がある方から、このような相談を受けることがあります。

物をつかむ動作と、つかんだ物を離す動作は、同じ手の動きのように見えて、必要な働きは異なります。物を握るときには指を曲げる筋肉が働きますが、離すときには指を伸ばす筋肉が働き、握るための筋肉の活動を適切に弱める必要があります。

そのため、握ることができても、手を開くことが難しい場合があります。

この記事では、脳卒中後に物をつかんだ後で手を離せなくなる原因を整理し、リハビリで確認したいポイントを解説します。


1.物を「つかむ」と「離す」は別の働きが必要

物をつかむ動作では、指を曲げて物を包み込み、必要な力で保持します。一方、物を離すときには、指を伸ばすだけでなく、握るために働いていた筋肉の活動を適切なタイミングで弱める必要があります。

つまり、手を離すためには、主に次の働きが必要です。

  • ・指を伸ばす

  • ・親指を開く、または物から離す

  • ・握る筋肉の活動を弱める

  • ・指や手首の動きを調整する

  • ・物が手から離れたことを感覚で確認する

脳卒中後は、これらの働きの一部が低下したり、タイミングが合いにくくなったりすることがあります。

実際に、脳卒中後の手の開きにくさは、指を伸ばす力の低下だけでなく、握る筋肉の活動を止めるまでに時間がかかることとも関連する可能性が報告されています。

2.物をつかんだ後に手を離せない主な原因

① 指を伸ばす筋肉の働きが弱い

手を開くためには、指を伸ばす筋肉が働く必要があります。

脳卒中によって運動麻痺が生じると、指を曲げる動きに比べて、指を伸ばす動きが難しくなることがあります。その結果、物を握った後に指を十分に伸ばせず、手を開けなくなる場合があります。

例えば、コップを握った状態から指を伸ばそうとしても、指先が少ししか動かない、指が途中で止まるといった状態です。

Langらの研究では、脳卒中後早期の対象者24名を調べ、指や親指を伸ばす能力と、物をつかむ際の手の開き方との関連が示されました。手指を伸ばす能力は、物をつかむための手の形を作るうえでも重要な要素です。

② 指を曲げる筋肉の緊張が高い

脳卒中後には、指を曲げる方向に筋緊張が高まり、手を開きにくくなることがあります。

例えば、手を開こうとしたときに指が強く曲がったままになる、手首を動かすと指も一緒に曲がる、急いで動かそうとすると握り込みが強くなる、といった様子がみられる場合があります。

ただし、指が開かない原因をすべて「痙縮」と判断することはできません。筋力低下、関節の動かしにくさ、痛み、運動の協調性なども関係するため、状態を分けて評価することが重要です。


③ 握る筋肉の活動を止めにくい

物を離すときには、指を伸ばす筋肉を働かせるだけでなく、握る筋肉の活動を弱める必要があります。

脳卒中後には、握る筋肉の活動が終わるまでに時間がかかり、指を開く動作が遅れることがあります。

Seoらの研究では、脳卒中者において握る動作の開始と終了に遅れが生じることが検討されました。物を離しにくい背景には、指を伸ばす力だけでなく、握る筋肉の活動を適切に終える難しさも関係する可能性があります。

④ 指や手首を別々に動かしにくい

手を開くときには、指だけでなく手首の位置も関係します。

例えば、手首が大きく曲がった状態では、指を伸ばしにくくなることがあります。また、指を伸ばそうとすると手首や肘、肩にも力が入り、動きがぎこちなくなる場合があります。

このように、必要な関節を適切に組み合わせて動かすことが難しい状態を、協調性の問題として捉えることがあります。


⑤ 感覚が低下している

手の感覚が低下すると、物をどの程度握っているのか、物が手から離れたのかを把握しにくくなることがあります。

そのため、必要以上に握り続けたり、手を開くタイミングが遅れたりする可能性があります。

目で見ながらなら離せるけれど、見ていないと難しい場合や、物を離した感覚が分かりにくい場合には、感覚面も確認する必要があります。


3.「離せない」を動作から整理する

同じ「手を離せない」という悩みでも、どのような場面で起こるかによって、考えられる原因は異なります。

困っている場面

考えられる要因

確認したいこと

握った直後から指が開かない

指を伸ばす力、筋緊張

自分の力で指を伸ばせるか

ゆっくりなら離せるが、急ぐと難しい

動作のタイミング、協調性

速度によって動きが変わるか

手首を曲げると指が握り込まれる

手首と指の連動、筋緊張

手首の角度で指の動きが変わるか

物を強く握ってしまう

力の調整、感覚

握る力を弱められるか

物を離した後も指が曲がったまま

指伸展の筋力、関節可動域など

指を最後まで伸ばせるか

反対の手で補助すると離せる

自動運動の低下など

自分の力と補助した動きに差があるか

このように、動作を具体的に観察することで、リハビリで確認すべき点が見えやすくなります。


4.日常生活ではどんな場面で困る?

手を離す動作は、日常生活のさまざまな場面で必要になります。

日常生活の動作

手を離す場面

困りやすいこと

コップを置く

コップを台に置いて指を開く

コップを握り続けてしまう

食事

箸やスプーンを持ち替える

道具を離しにくい

更衣

衣服をつかんで位置を変える

布をつかんだままになる

洗面

歯ブラシやタオルを置く

道具を置きにくい

家事

洗濯物や調理器具を持ち替える

手を使う切り替えが遅れる

両手動作

片手で支えた物を離す

反対の手の作業に移れない

「握れるようになったのに、生活では使いにくい」という場合、握る動作だけでなく、離す動作や持ち替えまで含めて確認することが大切です。


5.リハビリでは何を確認する?

リハビリでは、指を開けるかどうかだけでなく、どの条件で手を離しやすいかを確認します。

主な評価ポイント

評価項目

確認する内容

指の伸展

指を自分の力で伸ばせるか

親指の動き

親指を開いて物から離せるか

手首の位置

手首の角度によって指の動きが変わるか

筋緊張

指を曲げる方向の緊張が強くないか

握る力の調整

必要に応じて握る力を弱められるか

感覚

物が手から離れたことを感じられるか

動作の協調性

握る・離すを滑らかに切り替えられるか

生活動作

実際にコップや日用品を置けるか

評価では、手指の動きだけを確認するのではなく、実際に物をつかんで置く動作を観察します。

例えば、コップを握ってテーブルに置く、タオルをつかんで離す、軽い容器を持ち替えるなど、本人の生活に近い課題を使うことで、実用面での困りごとを把握しやすくなります。


6.手を離す練習では何が大切?

脳卒中後の上肢リハビリでは、本人の能力に合わせた反復的な課題練習が推奨されています。動作の一部分を練習した場合も、最終的には実際の生活動作に組み込むことが重要です。

手を離す練習では、例えば次のような段階が考えられます。

  • ・手首や指が動かしやすい姿勢を整える

  • ・無理のない範囲で指を伸ばす

  • ・軽く握った物を、ゆっくり置いて離す

  • ・物の大きさや重さを調整する

  • ・握る・離すを繰り返す

  • ・食事や家事など、実際の生活動作につなげる

重要なのは、最初から難しい物を強く握ったり、無理に指を引き伸ばしたりしないことです。痛みや強い抵抗がある場合は、無理に動かさず専門職に相談してください。

また、手を開くための練習方法は、指の筋力低下が中心なのか、筋緊張の影響が大きいのか、感覚や協調性の問題があるのかによって異なります。すべての方に同じ方法が適しているわけではありません。

手首や指を伸ばす筋肉への電気刺激は、対象者の状態によってリハビリの補助手段として検討されることがあります。ガイドラインでは、手首や指の筋力低下が機能を制限している場合に、通常のリハビリに加えて電気刺激を検討することが示されています。

7.「握れる」だけでなく「離せる」ことも大切

手の機能を考えるとき、物を握る力に注目しがちです。しかし、日常生活では、つかむ・保持する・離す・持ち替えるという一連の動作が必要です。

握ることができても、離すことが難しければ、コップを置く、道具を持ち替える、両手で作業するなどの動作に影響します。

そのため、リハビリでは「握れるようになったか」だけでなく、「必要なタイミングで手を開けるか」「生活の中で物を置いたり持ち替えたりできるか」も確認することが大切です。

手を離せない原因を動作ごとに整理し、本人の生活で必要な動きにつなげていきましょう。


まとめ

脳卒中後に物をつかんだ後、手を離せない原因には、次のようなものがあります。

  • ・指を伸ばす筋肉の働きが弱い

  • ・指を曲げる筋肉の緊張が高い

  • ・握る筋肉の活動を止めにくい

  • ・指や手首の協調性が低下している

  • ・感覚が低下し、力やタイミングを調整しにくい

手を離す動作は、指を伸ばすだけでなく、握る力を弱めることや、適切なタイミングで動きを切り替えることも必要です。

「握れるけれど離せない」という悩みがある場合は、指の動きだけでなく、手首の位置や筋緊張、感覚、実際の生活動作を含めて評価することが重要です。

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参考文献

  1. Seo NJ, Rymer WZ, Kamper DG. Delays in Grip Initiation and Termination in Persons With Stroke: Effects of Arm Support and Active Muscle Stretch Exercise. Journal of Neurophysiology. 2009;101(6). 論文

  2. Lang CE, et al. Recovery of Thumb and Finger Extension and Its Relation to Grasp Performance After Stroke. Journal of Neurophysiology. 2009. 全文

  3. Pelton T, van Vliet P, Hollands K. Interventions for improving coordination of reach to grasp following stroke: a systematic review. Int J Evid Based Healthc. 2012;10(2):89–102. PubMed

  4. National Clinical Guideline for Stroke. Rehabilitation and recovery – motor recovery and physical effects of stroke. 2023. ガイドライン

  5. NICE. Stroke rehabilitation in adults: Recommendations. ガイドライン

  6. Jensen L, et al. Stretching and Splinting Interventions for Poststroke Spasticity, Hand Function, and Functional Tasks: A Systematic Review. 2020. PubMed