脳卒中後に物をつかめない原因とは?握る動作を分解して解説|作業療法士が解説

脳卒中後に物をつかめない原因とは?握る動作を分解して解説|作業療法士が解説

「手を伸ばせても、物をうまくつかめない」 「コップに手を添えられるけれど、握ることが難しい」 「一度つかんだ物を落としてしまう」

脳卒中後、手に麻痺が残ると、このような悩みが生じることがあります。

物をつかむ動作は、単純に手の筋力だけで行っているわけではありません。目で物の位置や大きさを確認し、腕を伸ばし、指を開き、物に合わせて手の形を調整し、適切な力で握る必要があります。

つまり「つかめない」という困りごとの背景には、動作のさまざまな段階での問題が隠れている可能性があります。

この記事では、物をつかむ動作を分解し、脳卒中後に起こりやすい原因や、リハビリで確認したいポイントについて作業療法士の視点から解説します。

1.物をつかむ動作は「握る」だけではない

物をつかむ動作は、いくつもの要素が組み合わさって成り立っています。

例えば、テーブルの上にあるコップを手に取る場合、腕をコップの位置まで運び、指を開いて大きさに合わせ、コップに触れた後に握る力を調整します。

この一連の動作のどこかに問題があると、物をつかむことが難しくなります。

握る動作の分解

動作の段階

必要な働き

困りやすいこと

①物を見る・認識する

物の位置や大きさを把握する

物との距離や位置が分かりにくい

②手を伸ばす

肩・肘・前腕を協調させる

手が物まで届かない、軌道がずれる

③指を開く

手指を伸ばし、物を受け入れる形を作る

指が開かない、手が握り込まれる

④物に合わせる

手の大きさや向きを調整する

指が物に合わない、位置がずれる

⑤握る

指を曲げ、親指と協力して把持する

握る力が弱い、指が十分に曲がらない

⑥保持する

力を保ち、物を安定させる

途中で落とす、強く握りすぎる

⑦離す

握る力を調整して指を開く

物を離せない、手を開きにくい

このように、物をつかめない場合でも、原因は「握る力」だけとは限りません。

脳卒中後のリーチ・トゥ・グラスプ(手を伸ばして物をつかむ動作)では、腕と手の協調性や動作の正確性が損なわれることが報告されています。

2.脳卒中後に物をつかめない主な原因

① 手を伸ばす動作がうまくいかない

物をつかむためには、まず手を対象物まで運ぶ必要があります。

脳卒中後は、肩や肘の運動麻痺、関節の動かしにくさ、体幹の安定性の低下などによって、手を目的の位置へ運びにくくなることがあります。

例えば、コップをつかもうとしても、手がコップの手前で止まる、横にずれる、肩を大きくすくめてしまうといった動きがみられます。

この場合、指の機能だけを練習しても、実際に物をつかむ動作につながりにくいことがあります。肩・肘・手首を含めた腕全体の動きも確認する必要があります。

② 指を開くことが難しい

物を握る前には、対象物の大きさに合わせて指を開く必要があります。

しかし、脳卒中後は指を伸ばす筋肉の働きが低下したり、指を曲げる方向に筋緊張が高まったりして、手を開きにくくなることがあります。

特に、手を握り込むような姿勢が強い場合は、物に手を近づけても指が開かず、つかむ準備ができないことがあります。

このような場合は、握る練習だけでなく、手を開く動きや、指を物に合わせる準備動作も確認することが重要です。

③ 親指とほかの指が協調して動かない

物をつかむときには、親指とほかの指が協力して働きます。

例えば、コップを握る場合、親指が反対側から支え、ほかの指がコップを包み込むように動きます。

親指が十分に開かない、対立できない、指ごとの動きを調整できない場合には、物を安定してつかむことが難しくなります。

また、親指と人差し指で小さな物をつまむ動作では、指先の位置関係や細かな力加減が必要です。

そのため、握る動作を評価するときは、指全体が動くかだけでなく、親指がどのように働いているかも確認する必要があります。

④ 握る力が弱い、または力を調整できない

握るための筋力が低下すると、物を十分に保持できない場合があります。

一方で、力が弱いことだけが問題とは限りません。必要以上に強く握ってしまう、握る力を一定に保てないといった調整の問題も考えられます。

例えば、紙コップを強く握りつぶしてしまう、軽い物を持つときにも力が入りすぎる、持ち上げた途端に物を落としてしまうなどです。

物の種類によって必要な力は異なります。軽い物、重い物、滑りやすい物などに合わせて力を調整できることが大切です。

⑤ 感覚が低下している

手の感覚は、物をつかむ動作を調整するための重要な情報です。

物にどの程度触れているか、どれくらいの力が加わっているかが分かりにくいと、握る力を調整しにくくなることがあります。

その結果、物を落としたり、必要以上に強く握ったりする場合があります。

目で見ながらならつかめるものの、見ていないと手の位置や物の状態が分かりにくい場合には、感覚面の評価も必要です。

⑥ 握った後に手を開けない

「つかむことはできるけれど、離せない」という悩みもあります。

物をつかむ動作では、握る力だけでなく、必要なタイミングで力を抜いて指を開くことも重要です。

脳卒中後は、指を伸ばす動きが弱い、曲げる方向の筋緊張が高い、握る・開く動作の切り替えが難しいなどの理由で、物を離しにくくなることがあります。

つかむことと離すことは別々の要素として確認する必要があります。


3.「つかめない」を生活場面から考える

同じ「物をつかめない」という訴えでも、困っている生活動作によって必要な機能は異なります。

困っている動作

関係する機能

確認したいこと

コップを持てない

手を伸ばす、指を開く、握る、保持する

手が届くか、指がコップに合うか

ペットボトルを持てない

親指の対立、握力、力の調整

親指が反対側から支えられるか

小銭をつまめない

指先の対立、感覚、巧緻性

親指と人差し指を合わせられるか

タオルを握れない

指を曲げる、手首の安定性

握り込む力が出るか

物を持つと落とす

保持力、感覚、力の調整

握る力を保てるか

物を離せない

指を伸ばす、筋緊張の調整

握る動作から開く動作へ切り替えられるか

このように、困っている動作を具体的にすることで、どの機能を確認すべきかが見えやすくなります。


4.リハビリでは何を評価する?

物をつかむ動作を改善するためには、手指だけでなく、腕全体の動きや感覚、実際の生活動作を確認することが大切です。

主な評価ポイント

評価項目

確認する内容

肩・肘の動き

物の位置まで手を運べるか

手首の位置

つかむときに手首を安定させられるか

指の開閉

指を開く・曲げる動きができるか

親指の動き

ほかの指と向かい合わせられるか

感覚

触れた感覚や力加減が分かるか

筋緊張

指が握り込まれやすくないか

協調性

腕・手首・指を適切なタイミングで動かせるか

実用性

実際の生活で物をつかみ、使い、離せるか

評価では、関節や筋肉の状態を確認するだけでなく、コップやタオル、日用品などを使って実際の動作を観察することも重要です。

上肢機能の評価には、運動機能を確認する検査だけでなく、物をつかむ・移動させるなどの課題を通して、実用的な手の働きを確認する方法があります。単一の評価だけで手の機能全体を把握することは難しいため、複数の視点から確認することが推奨されています。

5.握る動作の練習は、段階に合わせて行う

リハビリでは、難しい動作を無理に繰り返すのではなく、どの段階で難しさが生じているかに合わせて練習内容を調整します。

例えば、指を開くことが難しい場合は、物を握る練習の前に、手を開く準備や手首・指の位置を整えることが必要になる場合があります。

一方、握ることはできるものの物を落とす場合は、保持する力や感覚、力の調整に着目します。

練習の考え方

課題

練習の方向性

手を物まで運びにくい

腕を伸ばして対象物に近づける練習

指が開きにくい

手を開く動きや物に合わせる練習

親指が使いにくい

親指とほかの指を協調させる課題

握る力が弱い

安全な物を使った把持・保持の練習

力加減が難しい

大きさや重さの異なる物を使った調整課題

物を離しにくい

握る・離すを繰り返す課題

脳卒中後の上肢リハビリでは、本人の能力に合わせて難易度を調整した、目的のある反復的な課題練習が推奨されています。練習した動作の要素を、最終的には実際の生活動作に組み込むことも重要です。

例えば、指を開く練習だけで終わらず、実際にコップに手を伸ばして持つ、タオルを握る、日用品をつかんで置くといった動作へつなげていきます。

ただし、麻痺の程度や筋緊張、痛み、感覚障害などによって適した課題は異なります。無理に指を開いたり、強く握り込んだりすると痛みにつながる場合もあるため、状態に合わせた練習が必要です。


6.「握る力」だけでなく、動作全体を見直そう

物をつかめないとき、「握力が弱いから」と考えがちです。しかし、実際には手を伸ばす、指を開く、物に合わせる、握る、保持する、離すという複数の段階が関係しています。

握る力があっても、手を物まで運べなければつかめません。指が開かなければ物を受け入れる形を作れず、握れても感覚や力の調整が難しければ落としてしまうことがあります。

大切なのは、困っている動作を具体的にして、どの段階に課題があるのかを整理することです。

「コップを持ちたい」 「タオルを絞れるようになりたい」 「食事のときに麻痺した手で食器を支えたい」

このような生活上の目標をもとに、必要な機能と練習内容を考えていきましょう。


まとめ

脳卒中後に物をつかめない原因は、握力の低下だけではありません。

  • ・腕を物まで伸ばしにくい

  • ・指を開きにくい

  • ・親指とほかの指が協調しない

  • ・握る力が弱い、または調整しにくい

  • ・感覚が低下している

  • ・握った物を保持できない、離せない

このように、さまざまな要因が関係します。

リハビリでは、手指の動きだけでなく、腕全体の動きや感覚、実際の生活動作を確認しながら、本人に合った課題を設定することが大切です。

「物をつかめない」という悩みを動作ごとに分けて考えることが、改善に向けた第一歩になります。


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参考文献

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