脳卒中後に一人で着替えられるようになるためのコツ|作業療法士が解説

「脳卒中になってから、一人で着替えるのが難しくなった」

「以前は普通に着替えられていたのに、時間がかかるようになった」

「家族に手伝ってもらっているけれど、できることは自分でやりたい」

脳卒中後には、このような着替えに関する悩みがよくあります。

着替えは毎日行う動作だからこそ、自分でできるようになると生活の自立度が大きく変わります。

しかし、脳卒中後の着替えでは、単純に「腕の筋力をつければできる」というわけではありません。

麻痺側の手足の動きだけでなく、

  • ・座る・立つ姿勢
  • ・バランス能力
  • ・体幹の動き
  • ・麻痺側の感覚
  • ・衣服を操作する能力
  • ・動作の順番を考える力

など、さまざまな機能が関係しています。

この記事では、脳卒中後に一人で着替えられるようになるためのポイントを、作業療法士の視点から詳しく解説します。


なぜ脳卒中後は着替えが難しくなるの?

着替えは、一見すると簡単な動作に思えるかもしれません。

しかし実際には、たくさんの動作を組み合わせています。

例えばシャツを着る場合でも、

  1. 衣服を持つ
  2. 袖を確認する
  3. 麻痺側の腕を袖に入れる
  4. 衣服を引き上げる
  5. 反対側の腕を入れる
  6. 頭を通す
  7. 衣服の位置を整える

といった複数の動作が必要です。

さらに、ズボンを履く場合には、

  • ・座る
  • ・足を持ち上げる
  • ・裾をつかむ
  • ・足を通す
  • ・ズボンを引き上げる
  • ・立ち上がる
  • ・腰まで上げる

という動作が必要になります。

つまり、着替えは全身を使った複雑な生活動作なのです。


脳卒中後の着替えで困りやすいこと

①麻痺側の腕が動かしにくい

シャツの袖に腕を通したり、衣服を引っ張ったりする際には、麻痺側の腕も関係します。

腕を十分に動かせないと、袖を通すだけでも時間がかかります。

ただし、ここで大切なのは「麻痺側の腕を無理やり動かす」ことではありません。

今できる範囲の動きを活かしながら、着替えの方法を工夫することが重要です。


②体幹が不安定

着替えでは、身体を前へ倒したり、左右へ傾けたりする場面があります。

例えば靴下を履くときには、足元へ手を伸ばす必要があります。

体幹のバランスが低下していると、

「手を伸ばしたら身体が倒れそう」

という不安が生じます。

その結果、着替えそのものを避けてしまうこともあります。


③麻痺側の感覚が分かりにくい

脳卒中後には、麻痺だけでなく感覚障害が生じることがあります。

例えば、

「袖に腕が入っているのか分からない」

「ズボンがどこまで上がっているのか分からない」

といったことがあります。

この場合、単純な筋力訓練だけではなく、視覚を使って確認する方法や、衣服の触れ方を工夫することも重要になります。


④動作の順番が分からなくなる

脳卒中の部位によっては、動作そのものの順番を組み立てることが難しくなる場合があります。

「シャツを着る」ということは理解していても、

「次に何をすればいいのか分からない」

という状態です。

この場合は、動作を一つずつ分けて練習することが有効です。


一人で着替えるための基本的な考え方

脳卒中後の着替えでは、

「できない動作を無理に頑張る」のではなく、「できる方法に変える」

という考え方が重要です。

例えば、立った状態でズボンを履くのが難しい場合、最初は椅子に座って履く方法があります。

これだけでも転倒リスクを抑えながら、自分でできる範囲を増やすことができます。


上着を着るときのコツ

脳卒中後の着替えでは、

麻痺側から袖を通す

ことが基本的な方法の一つです。

例えば右半身に麻痺がある場合、

  1. 上着を広げる
  2. 右腕を袖に入れる
  3. 肩まで衣服を引き上げる
  4. 左腕を入れる
  5. 最後に衣服を整える

というように進めます。

麻痺側の腕を先に入れることで、動かしにくい腕を後から無理に袖へ通す必要がなくなります。


脱ぐときは反対に考える

服を脱ぐときには、

非麻痺側から脱いで、最後に麻痺側を抜く

という方法が一般的です。

つまり、

着る

麻痺側 → 非麻痺側

脱ぐ

非麻痺側 → 麻痺側

という考え方です。

ただし、麻痺の程度や肩の動きなどによって適切な方法は異なります。

痛みがある場合は無理をしないことが大切です。


ズボンを履くときのコツ

ズボンは立った状態で履こうとすると、転倒の危険があります。

まずは椅子などに座って行う方法がおすすめです。

基本的には、

  1. 椅子に座る
  2. ズボンのウエスト部分を持つ
  3. 麻痺側の足を先に入れる
  4. 非麻痺側の足を入れる
  5. 膝まで引き上げる
  6. 安定した場所につかまって立つ
  7. 腰までズボンを上げる

という流れです。

特に重要なのが、麻痺側の足を先に入れることです。

麻痺側の足は動かしにくいため、先に準備しておくことで動作を進めやすくなります。


靴下を履くのが難しい場合

靴下は、脳卒中後に特に難しくなりやすい動作です。

理由は、

  • ・足元を見る
  • ・身体を前に倒す
  • ・足を持ち上げる
  • ・靴下をつかむ
  • ・引っ張る

という複数の動作が必要になるためです。

無理に立ったまま行うのではなく、椅子に座って行うことをおすすめします。

必要に応じて、靴下を履くための自助具を利用する方法もあります。

「道具を使う=できなくなった」ということではありません。

むしろ、道具を使うことで自分でできることを増やすことができます。


着替えを楽にする衣服選び

着替えの練習では、衣服そのものを見直すことも重要です。

例えば、

  • ・前開きのシャツ
  • ・大きめのボタン
  • ・ゴムウエストのズボン
  • ・滑りにくい素材
  • ・ゆったりした服

などは着替えやすい傾向があります。

ボタンが難しい場合には、ファスナーや面ファスナーの衣服を選ぶ方法もあります。

「以前と同じ服を着る」ことにこだわる必要はありません。

まずは自分で着替えやすい服を選ぶことも立派なリハビリです。


着替えの環境を整える

着替えを一人で行うためには、環境も重要です。

例えば、

  • ・椅子を準備する
  • ・衣服を手の届く場所に置く
  • ・着る順番に並べる
  • ・滑りにくい床にする
  • ・手すりを設置する
  • ・着替える場所を十分に明るくする

などの工夫があります。

特に立位でズボンを上げるときは、身体を支えられる場所を確保しておくことが大切です。


「全部一人でやる」ことだけが自立ではない

ここは非常に重要なポイントです。

リハビリでは、

「一人で全部できるようになること」

だけを目標にする必要はありません。

例えば、

  • ・シャツは一人で着られる
  • ・ズボンは途中まで一人でできる
  • ・ボタンだけ家族に手伝ってもらう

という状態でも、十分に自立度は高まっています。

大切なのは、

「できる部分を自分で行い、難しい部分だけ必要なサポートを受ける」

ことです。

この考え方は、リハビリでいう「自立支援」にもつながります。


家族が手伝いすぎないことも大切

家族としては、

「時間がかかるから手伝ってあげよう」

と思うことがあります。

もちろん、安全のために必要な介助は重要です。

しかし、本人ができる動作まで先回りして手伝ってしまうと、自分で行う機会が減ってしまいます。

例えば、

「袖に腕を通すところまでは自分でやってもらう」

「ボタンだけ手伝う」

など、できる部分を残した介助を意識してみましょう。


着替えの練習では「時間」も大切

脳卒中後は、着替えに以前より時間がかかることがあります。

そこで、

「早く着替えられないから家族が全部やる」

となってしまうことがあります。

しかし、時間がかかっても自分でできるのであれば、それは大きな意味があります。

まずは安全を確保したうえで、

「自分でできた」ことを増やしていく

ことが大切です。

最初は20分かかっていた着替えが、練習によって15分になった。

さらに10分になった。

このような変化も立派な回復です。


着替えのリハビリで重要なのは「実際の動作」

着替えを上達させたいのであれば、筋力トレーニングだけではなく、実際に着替える練習が重要です。

例えば、

「腕を上げる練習」

だけをするのではなく、

「実際にシャツの袖へ腕を通す」

という動作を行います。

実際の生活動作には、

  • ・衣服の重さ
  • ・布の滑り
  • ・ボタン
  • ・ファスナー
  • ・身体の姿勢
  • ・手の位置

など、さまざまな要素が関係します。

そのため、実際の生活に近い環境で練習することが重要です。


「できるADL」と「しているADL」は違う

リハビリでは、

「できるADL」と「しているADL」の違い

も重要です。

リハビリ室では一人で着替えられるのに、自宅では家族が着替えさせている。

このようなケースもあります。

身体能力としては「できる」のに、生活の中では「していない」という状態です。

この差を埋めることも、リハビリの大切な役割です。


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まとめ

脳卒中後に一人で着替えられるようになるためには、単純に筋力を高めるだけでは十分ではありません。

大切なのは、

  • ・麻痺側から袖を通す
  • ・ズボンは座って履く
  • ・着替えやすい衣服を選ぶ
  • ・自助具を活用する
  • ・環境を整える
  • ・できる部分は自分で行う
  • ・実際の着替え動作を練習する

といった工夫です。

そして何より、

「できないこと」ではなく「今できること」に目を向けること

が大切です。

脳卒中後の身体機能は一人ひとり異なります。

同じ「右半身麻痺」であっても、腕の動き、感覚、バランス、体幹機能などによって、適した着替え方は変わります。

「一人で着替えたい」という目標があるなら、その人に合った方法を見つけることが、自立への近道になります。


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着替えについても、

  • ・麻痺側の腕の使い方
  • ・体幹や座位・立位バランス
  • ・手の操作性
  • ・感覚機能
  • ・衣服の選び方
  • ・自助具の活用
  • ・ご自宅での動作方法

などを確認しながら、「できること」を少しずつ増やしていくことを目指します。

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