歩くだけでは歩行は改善しない?質を高めるリハビリ|脳卒中後の歩き方を作業療法士が解説

「毎日歩いているのに、歩き方がなかなか良くならない」

「リハビリを頑張っているのに、すぐ疲れてしまう」

「歩く距離は増えたけれど、麻痺側の足がうまく使えない」

脳卒中後のリハビリでは、このようなお悩みを抱えている方が少なくありません。

歩行能力を改善するためには、もちろん実際に歩く練習をすることが大切です。

しかし、ただ歩く回数や距離を増やせば、必ず歩き方が良くなるとは限りません。

特に脳卒中後は、麻痺や感覚障害、筋力低下、バランス能力の低下などによって、身体を効率よく動かすことが難しくなっています。

その状態で「とにかくたくさん歩く」ことだけを続けると、代償的な歩き方が習慣になってしまうこともあります。

大切なのは、

「どれだけ歩いたか」だけではなく、「どのように歩いたか」に目を向けることです。

この記事では、脳卒中後の歩行改善に必要な「歩行の質」と、質を高めるためのリハビリについて、作業療法士の視点から詳しく解説します。


歩くだけでは歩行が改善しにくいことがある理由

歩行は、一見すると単純な動作に見えます。

しかし実際には、

  • ・姿勢を安定させる
  • ・体重を左右へ移動する
  • ・麻痺側の脚で身体を支える
  • ・反対側の脚を前へ出す
  • ・足首や膝、股関節を適切に動かす
  • ・周囲の環境を確認する

など、非常に多くの身体機能が関係しています。

脳卒中後には、これらの機能の一部が低下することがあります。

例えば、麻痺側の脚に体重を乗せることが怖い場合、無意識に健側へ体重を逃がして歩くようになります。

すると、

「麻痺側に体重を乗せない」

↓

「非麻痺側ばかり使う」

↓

「左右差の大きい歩き方になる」

↓

「さらに麻痺側を使いにくくなる」

という悪循環につながることがあります。

そのため、歩行練習では単純に歩数を増やすだけではなく、現在どのような歩き方をしているのかを確認することが重要です。


「歩行の質」とは何?

では、「歩行の質」とは一体何でしょうか。

歩行の質は、単純に「きれいな歩き方」という意味ではありません。

例えば、

  • ・安定して歩ける
  • ・必要以上に身体が揺れない
  • ・左右の脚を適切に使える
  • ・麻痺側へ体重を移動できる
  • ・足をスムーズに振り出せる
  • ・過度に疲れない
  • ・転倒しにくい

といった要素が重要になります。

つまり、

「安全で、効率的に、自分の身体を使って歩けるか」

という視点です。

歩行速度が速くなったとしても、身体を大きく左右に揺らしたり、麻痺側をほとんど使っていなかったりする場合には、必ずしも歩行の質が高くなったとは言えません。


脳卒中後の歩行で起こりやすい代償動作

脳卒中後には、身体が動かしにくい部分を別の動きで補うことがあります。

これを代償動作と呼びます。

代償そのものが悪いわけではありません。

安全に歩くために必要な場合もあります。

ただし、長期間にわたって同じ代償動作を続けることで、身体の使い方に偏りが生じることがあります。


①身体を左右に大きく揺らす

麻痺側の脚に体重を乗せにくい場合、身体を左右へ大きく動かして歩くことがあります。

一見すると歩けていても、エネルギーを多く使うため、長い距離を歩くと疲れやすくなることがあります。


②麻痺側の脚を外側へ回す

つま先が床に引っかからないように、麻痺側の脚を外側へ大きく回して前へ出すことがあります。

このような歩き方を「分回し歩行」と呼びます。

つまずきを避けるための工夫ですが、股関節や体幹への負担が増える場合があります。


③非麻痺側ばかり使う

麻痺側に不安があると、無意識に非麻痺側へ体重を逃がしてしまいます。

すると、麻痺側で身体を支える時間が短くなり、左右差の大きな歩行につながります。

「歩いているけれど、麻痺側の脚をほとんど使っていない」

という状態になることもあります。


歩行の質を高めるために重要な5つのポイント

ここからは、歩行の質を高めるために重要なポイントを紹介します。


①姿勢を整える

歩行は「足」だけで行うものではありません。

立ったときの姿勢が崩れていると、歩行中の身体の動きにも影響します。

例えば、

  • ・身体が後ろに反っている
  • ・骨盤が傾いている
  • ・体幹が左右に傾いている
  • ・麻痺側に体重を乗せられない

といった状態では、脚をスムーズに動かすことが難しくなります。

そのため、歩行練習だけではなく、立位姿勢や体幹の使い方を見直すことも大切です。


②麻痺側へ体重を移動する

歩行では、左右の脚に交互に体重を乗せます。

ところが脳卒中後は、麻痺側に体重を乗せることが不安になり、健側に逃げてしまうことがあります。

そこで、

「麻痺側に安全に体重を乗せる」

という練習が重要になります。

ただし、単純に麻痺側へ身体を傾ければよいわけではありません。

足の位置、骨盤、体幹の動きなどを確認しながら、適切な荷重を身につけることが大切です。


③体幹を安定させる

歩行中は、脚だけではなく体幹も常に働いています。

体幹が不安定だと、

  • ・身体が左右に揺れる
  • ・歩幅が小さくなる
  • ・バランスを崩しやすい
  • ・疲れやすい

といった問題につながります。

そのため、歩行リハビリでは脚だけを見るのではなく、体幹と骨盤の動きも確認する必要があります。


④足を適切に振り出す

麻痺側の脚を前へ出すためには、

  • ・股関節
  • ・膝
  • ・足首

が協調して動く必要があります。

特に足首が十分に上がらない場合には、つま先が引っかかりやすくなります。

「足が上がらないから、もっと膝を高く上げる」

という単純な対応だけではなく、

なぜ足が上がりにくいのか

を確認することが重要です。


⑤歩行中の感覚を利用する

歩くときには、足の裏や関節からさまざまな感覚情報が脳へ送られています。

例えば、

「今、足の裏が床についている」

「どのくらい体重が乗っている」

「膝がどの位置にある」

といった情報です。

脳卒中後に感覚障害がある場合、この情報をうまく利用できなくなることがあります。

そのため、運動だけでなく感覚にも目を向けたリハビリが重要になります。


「たくさん歩く」ことは意味がないの?

もちろん、そんなことはありません。

歩く練習そのものは非常に重要です。

歩行能力を高めるためには、実際の歩行練習を繰り返すことが必要です。

ただし、

「量」と「質」の両方を見ることが大切

ということです。

例えば、

量だけを重視

「今日は5,000歩歩いた!」

↓

でも、歩くたびに身体が大きく揺れる。

質も重視

「今日は2,000歩だけど、麻痺側への体重移動を意識して歩けた。」

このように、単純な歩数だけでは分からない変化があります。

もちろん、必要な歩行量は身体状態や目標によって異なります。

重要なのは、

「自分にとって適切な量を、できるだけ良い動きで行う」

という考え方です。


歩行リハビリで「頑張りすぎ」に注意

歩行改善を目指すあまり、

「とにかくたくさん歩かなければ」

と頑張りすぎてしまう方もいます。

しかし、疲労が強くなると歩き方が崩れやすくなります。

例えば、

最初は安定して歩けていたのに、

疲れてくると

  • ・足が上がらない
  • ・身体が左右に揺れる
  • ・歩幅が小さくなる
  • ・つまずきやすくなる

ということがあります。

この状態で無理に歩き続けると、転倒につながる可能性があります。

そのため、

「疲れるまで歩く」のではなく、「質を保てる範囲で練習する」

ことも大切です。


杖を使っている場合はどうする?

「杖を使っていると歩行が改善しないのでは?」

と心配される方もいます。

しかし、杖は適切に使用すれば、歩行を安全に行うための重要な道具です。

杖を使って安定して歩けることで、

  • ・外出する機会が増える
  • ・歩行練習の量を確保できる
  • ・転倒リスクを抑えられる

といったメリットがあります。

杖を卒業することだけを目標にするのではなく、安全に歩けることを優先することが重要です。


階段や屋外歩行にもつなげる

歩行の質を高めるリハビリでは、平地を歩くだけではなく、実際の生活場面も考える必要があります。

例えば、

  • ・階段
  • ・坂道
  • ・段差
  • ・スーパー
  • ・駐車場
  • ・人混み
  • ・屋外の不整地

などです。

自宅では問題なく歩けても、外に出ると不安定になる方もいます。

そのため、

「どこで歩けるようになりたいのか」

を明確にすることが大切です。


自宅で歩くときに意識したいこと

自宅で歩行練習をする場合は、次のようなポイントを意識してみましょう。

①身体の姿勢を確認する

背中が丸くなっていないか、身体が左右に傾いていないか確認します。

②麻痺側の足を意識する

「麻痺側の足が床にどう接地しているか」を意識してみましょう。

③歩幅を確認する

左右の歩幅に大きな差がないか確認します。

④足元ばかり見ない

転倒への不安から足元を見続ける方もいますが、実際の生活では前方の環境を見ることも重要です。

⑤疲れたら休む

疲労によって歩行が崩れてきたら、無理をせず休憩しましょう。


自分の歩き方を動画で確認するのもおすすめ

自分では「普通に歩いている」と思っていても、実際には身体が大きく傾いていたり、左右差があったりすることがあります。

スマートフォンなどで歩行を撮影して、

  • ・正面
  • ・横
  • ・後ろ

から確認すると、自分では気づかなかった特徴が見つかることがあります。

ただし、動画だけで原因を判断するのは難しいため、

「なぜこの歩き方になっているのか」

を知りたい場合は、専門職に評価してもらうことをおすすめします。


こんな方は一度歩き方を見直してみましょう

以下に当てはまる方は、歩行の「量」だけではなく「質」に目を向けてみることをおすすめします。

  • ・毎日歩いているのに歩き方が変わらない
  • ・歩くとすぐ疲れる
  • ・麻痺側の脚をあまり使っていない
  • ・身体が左右に大きく揺れる
  • ・つま先が引っかかる
  • ・杖を使っている
  • ・転倒やつまずきが増えている
  • ・外出するのが不安
  • ・階段が怖い

このような場合、歩行そのものだけでなく、姿勢・体幹・バランス・感覚・関節の動きなどを総合的に評価することが重要です。


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まとめ|歩行は「量」だけでなく「質」にも注目

脳卒中後の歩行改善では、

「たくさん歩くこと」だけが正解ではありません。

もちろん歩行量を確保することは重要です。

しかし、それと同時に、

  • ・姿勢
  • ・体幹
  • ・バランス
  • ・麻痺側への体重移動
  • ・股関節・膝・足首の動き
  • ・感覚

などを確認し、より効率的な身体の使い方を身につけていくことも大切です。

「毎日歩いているのに改善しない」と感じている場合は、歩く距離をさらに増やす前に、一度ご自身の歩き方を見直してみることをおすすめします。

歩行の問題には、一人ひとり異なる原因があります。

だからこそ、

「なぜ歩きにくいのか」を見つけることが、歩行改善への第一歩です。


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単純に歩く距離を増やすだけではなく、

  • ・姿勢
  • ・体幹
  • ・バランス
  • ・麻痺側への荷重
  • ・下肢の動き
  • ・感覚
  • ・日常生活での歩行

などを総合的に見ながら、より安全で効率的な歩行を目指します。

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