お風呂に安全に入るためのポイントとリハビリ|脳卒中後の入浴動作を作業療法士が解説

「脳卒中を発症してから、お風呂に入るのが怖くなった」

「浴槽をまたぐときにふらつく」

「一人でお風呂に入れるようになりたいけれど、転倒が心配」

脳卒中後の生活では、入浴に不安を感じる方が少なくありません。

入浴は毎日の生活に欠かせない動作ですが、実は歩行だけではなく、立ち上がり、方向転換、片足立ち、浴槽をまたぐ、座る、身体を洗うなど、多くの動作が必要になります。

さらに浴室は、

  • ・床が濡れている
  • ・滑りやすい
  • ・浴槽にまたぐ必要がある
  • ・温度変化が大きい
  • ・裸になるため身体を支えにくい

といった特徴があり、転倒に注意が必要な場所です。

特に脳卒中後は、麻痺やバランス能力の低下、感覚障害などによって、入浴動作が難しくなることがあります。

そこで今回は、脳卒中後にお風呂へ安全に入るためのポイントと、入浴動作を改善するためのリハビリについて、作業療法士の視点から詳しく解説します。


なぜ脳卒中後はお風呂が危険になりやすい?

脳卒中後の入浴で最も注意したいのが、転倒です。

浴室では床が濡れているため、普段の生活よりも足元が不安定になります。

さらに、浴槽をまたぐときには片足立ちに近い状態になるため、バランス能力が必要です。

例えば、

  1. 浴室まで歩く
  2. 浴室に入る
  3. 衣服を脱ぐ
  4. 浴室内で立つ・座る
  5. 浴槽をまたぐ
  6. 浴槽に入る
  7. 浴槽から出る
  8. 身体を拭く
  9. 衣服を着る

というように、入浴は非常に多くの動作から構成されています。

そのため、「歩けるから一人でお風呂に入れる」とは限りません。


脳卒中後に入浴で困りやすい5つのポイント

①浴槽をまたぐのが怖い

浴槽をまたぐためには、片足を持ち上げて身体を支える必要があります。

麻痺側の脚が上がりにくかったり、片脚で立つバランス能力が低下していると、浴槽の縁に足を引っ掛けてしまう可能性があります。

また、浴槽をまたぐときに身体が後ろへ傾くと、転倒につながる危険があります。


②浴室内で足元が滑る

浴室の床は水や石けんなどによって滑りやすくなっています。

普段の床では問題なく歩ける方でも、浴室ではバランスを崩すことがあります。

特に麻痺側の足に体重を乗せにくい方は注意が必要です。


③立ち上がりが不安定

浴槽から出た後や、洗体用の椅子から立ち上がる際には、十分な下肢の力とバランスが必要です。

「椅子から立つ」という動作だけを見ても、

  • ・足を適切な位置に置く
  • ・身体を前へ倒す
  • ・足へ体重を移す
  • ・脚で身体を持ち上げる
  • ・立位を安定させる

という複数の動作が必要になります。


④麻痺側の感覚が分かりにくい

脳卒中後には、麻痺だけでなく感覚障害が残る場合があります。

例えば、

「足が床についている感覚が分かりにくい」

「浴槽の縁に足が当たっていることに気づきにくい」

といったことがあります。

浴室は視界が悪くなる場面もあるため、感覚の低下がある方は特に注意が必要です。


⑤温度変化にも注意

入浴では、脱衣所と浴室、浴槽内で温度環境が大きく変わります。

特に高齢の方や循環器系の疾患がある方では、入浴時の体調変化にも注意が必要です。

持病がある方や医師から入浴について指示を受けている方は、自己判断せず主治医などの指示を優先してください。


お風呂に安全に入るための環境づくり

入浴の安全性を高めるには、身体機能だけでなく環境を整えることも重要です。

浴室用の椅子を使う

立ったまま身体を洗うのではなく、浴室用の椅子に座って洗うことで、転倒リスクを抑えやすくなります。

座った状態であれば、両足を床につけて身体を安定させることができます。


手すりを設置する

浴室への出入りや浴槽のまたぎ動作に不安がある場合、手すりが役立つことがあります。

ただし、手すりならどこに設置してもよいわけではありません。

本人の身体能力や浴室の構造に合わせて、適切な位置を検討することが重要です。

必要に応じて、福祉用具専門員などにも相談しましょう。


滑りにくい環境をつくる

浴室内の床が滑りやすい場合には、滑りにくいマットなどを検討する方法があります。

ただし、マット自体がずれると逆に危険になることがあります。

使用する場合は、浴室の環境に合ったものを選び、ずれないことを確認しましょう。


浴槽をまたぐときのポイント

脳卒中後の入浴動作で特に重要なのが、浴槽をまたぐ動作です。

基本的には、浴槽の縁をしっかり確認し、身体を安定させてから足を持ち上げます。

ただし、麻痺の程度によって適切な方法は異なります。

例えば、麻痺側の脚が上がりにくい場合には、

「どちらの足から入れるか」

「どこに手を置くか」

「どの方向へ身体を向けるか」

などを個別に検討する必要があります。

「浴槽をまたぐ」という一つの動作でも、人によって安全な方法は違います。


浴槽から出るときも注意

浴槽から出るときは、入るとき以上に注意が必要になる場合があります。

浴槽から立ち上がった直後は身体が不安定になりやすいため、急いで歩き出さないことが大切です。

まずは、

立つ → 姿勢を安定させる → 足元を確認する → ゆっくり移動する

という流れを意識しましょう。


入浴動作のリハビリでは何をする?

「お風呂に一人で入れるようになりたい」

という目標がある場合、単純に筋力を鍛えるだけでは十分ではありません。

入浴動作に必要な能力を一つずつ確認していきます。


①立ち上がりの練習

浴室用の椅子から立つためには、十分な下肢の力と体幹のコントロールが必要です。

リハビリでは、

  • ・足の位置
  • ・体幹の前傾
  • ・重心移動
  • ・下肢の支持力

などを確認しながら立ち上がりを練習します。


②片脚で身体を支える練習

浴槽をまたぐ際には、片方の脚で身体を支える必要があります。

そのため、片脚での支持能力や左右への体重移動が重要です。

ただし、転倒リスクがあるため、自宅で無理に片脚立ちを行うのは避け、必要に応じて専門職の指導を受けましょう。


③体幹のバランスを整える

浴槽をまたぐときや身体を洗うときには、身体をさまざまな方向へ動かします。

体幹が安定していることで、手足を動かしたときにも姿勢を保ちやすくなります。

そのため、入浴動作のリハビリでは体幹機能も重要なポイントです。


④麻痺側への荷重練習

麻痺側に体重を乗せることが怖い方は、健側へ体重を逃がしてしまいます。

しかし、浴槽をまたぐときなどには、麻痺側で身体を支える場面が必要になることがあります。

そこで、

「麻痺側に安全に体重を乗せる」

という練習が重要になります。


⑤実際の生活動作につなげる

リハビリ室で立ち上がりができても、自宅のお風呂で同じようにできるとは限りません。

実際の浴室では、

  • ・浴槽の高さ
  • ・椅子の高さ
  • ・手すりの位置
  • ・床の滑りやすさ
  • ・浴室の広さ

などが違います。

そのため、必要に応じて自宅環境を確認し、実際の生活場面に合わせて動作方法を考えることが重要です。


一人で入浴できない=リハビリができていない?

そんなことはありません。

入浴は非常に複雑な動作なので、現在一人でできないからといって、それだけで「回復していない」と考える必要はありません。

例えば、

「浴槽には一人で入れるけれど、出るときだけ見守りが必要」

という状態でも、大きな進歩です。

また、

「浴室まで一人で行ける」

「服を脱ぐところまではできる」

「身体を洗うことはできる」

など、部分的にできることを増やしていくことも大切です。


家族の介助で大切なこと

家族が入浴を介助する場合は、安全を優先することが大切です。

特に浴室では転倒すると大きなけがにつながる可能性があります。

本人ができる部分については見守り、危険な部分だけ介助するという方法もあります。

例えば、

「浴槽に入るところだけ介助する」

「浴槽から出るときだけ見守る」

などです。

ただし、本人の身体能力や浴室環境によって必要な介助量は変わります。

無理に一人で行わせることは避けましょう。


「できるADL」と「しているADL」の違い

入浴でも、

「できるけれど、実際にはしていない」

ということがあります。

例えば、リハビリ施設では浴槽またぎができるのに、自宅では家族がすべて介助しているケースです。

これは本人の能力だけではなく、

  • ・転倒への不安
  • ・家族の心配
  • ・浴室環境
  • ・動作への自信

などが関係している場合があります。

リハビリでは、単純に「できるようになる」だけでなく、実際の生活の中で安全に行えるようにすることが重要です。


お風呂に入る前に確認したいこと

入浴前には、次のようなポイントを確認しておきましょう。

□体調が悪くないか

疲労感や体調不良がある場合は無理をしないことが大切です。

□浴室が滑りやすくなっていないか

水や石けんが床に残っていないか確認しましょう。

□必要なものが手の届く場所にあるか

シャンプーやタオルなどを無理に取ろうとしてバランスを崩さないようにします。

□手すりや椅子が安定しているか

使用前にぐらつきなどを確認しましょう。

□一人で行って安全か

少しでも転倒への不安がある場合は、家族の見守りや介助を検討しましょう。


入浴だけでなく「生活全体」を見る

入浴動作を改善したい場合でも、入浴だけを練習すればよいとは限りません。

例えば、

  • ・ベッドから起きる
  • ・椅子から立つ
  • ・歩く
  • ・方向転換する
  • ・服を脱ぐ
  • ・浴槽をまたぐ

といった一連の動作が関係しています。

そのため、日常生活全体を見ながら身体機能を改善していくことが重要です。


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まとめ|お風呂は「安全にできる方法」を見つけることが大切

脳卒中後の入浴は、歩行だけでなく、

  • ・立ち上がり
  • ・バランス
  • ・体幹
  • ・麻痺側への荷重
  • ・足の持ち上げ
  • ・浴槽をまたぐ動作
  • ・感覚

など、多くの能力が必要になります。

そのため、「歩けるようになったから、一人でお風呂に入れる」とは限りません。

大切なのは、現在の身体機能と浴室環境を確認し、安全に入浴できる方法を考えることです。

浴室用の椅子や手すりなどの福祉用具を活用することで、安全性を高められる場合もあります。

また、リハビリでは単純な筋力トレーニングだけでなく、立ち上がりや体重移動、バランス、浴槽またぎなど、実際の入浴につながる動作を練習することが重要です。

「一人でお風呂に入りたい」という目標がある方は、まず何が原因で難しくなっているのかを確認してみましょう。


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入浴についても、単純に筋力を鍛えるだけではなく、

  • ・立ち上がり
  • ・体幹・バランス
  • ・麻痺側への荷重
  • ・足の振り出し
  • ・浴槽またぎ
  • ・着替え
  • ・自宅での動作方法

などを総合的に考え、実際の生活につながるリハビリを大切にしています。

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