「毎日リハビリをしたほうが、早く回復するのでしょうか?」
脳卒中後の方から、よく聞かれる質問の一つです。
「できるだけ毎日練習したほうがいい」
「たくさん動かしたほうが脳に良い」
という話を聞くこともあるでしょう。
実際、脳卒中後のリハビリでは練習量や反復回数が重要と考えられています。
一方で、
「毎日やればやるほど、必ず早く回復する」
というほど単純ではありません。
研究を見ても、リハビリの時間や量を増やすことで改善がみられる研究がある一方、単純に時間を倍にしても全員に明らかなメリットが出なかった研究や、急性期では「長時間」より「短時間を複数回」に意味があることを示した研究もあります。
つまり大切なのは、
「毎日やるか・やらないか」だけではなく、何を、どのくらい、どのような方法で練習するのか
ということです。
今回は、脳卒中後のリハビリについて、「たくさんやったほうが良い」という研究と、「量を増やせば必ず良いわけではない」という研究の両方を紹介しながら、作業療法士の視点で分かりやすく解説します。
結論|毎日の練習は重要。でも「量」だけでは決まらない
まず結論です。
適切なリハビリを継続して行うことは、脳卒中後の回復を考えるうえで重要です。
しかし、
「毎日長時間やれば、その分だけ早く回復する」
とは言えません。
例えば、
- ・10分でも集中して正しい動作を練習する
- ・30分間、目的のある動作を繰り返す
- ・疲労や痛みが強い状態で無理に2時間練習する
この3つを比べたとき、単純に「2時間が一番良い」とは限りません。
脳卒中後のリハビリでは、練習量・練習内容・動作の質・疲労・安全性・本人の能力などを総合的に考える必要があります。
なぜ「毎日リハビリ」が重要なの?
脳卒中後の回復では、神経可塑性という考え方が重要です。
神経可塑性とは、簡単に言えば、
脳が経験や学習に応じて、その働き方やネットワークを変化させる能力
です。
例えば、脳卒中後に手が動かしにくくなった場合、
「手を伸ばす」
「物をつかむ」
「コップを持つ」
「箸を使う」
といった動作を繰り返し経験することで、その動作に必要な神経ネットワークの働き方が変化していくことが期待されます。
そのため、リハビリでは**「一度できた」だけではなく、「繰り返し経験する」こと**が重要になります。
2023年のNational Clinical Guideline for Strokeでも、上肢にある程度の運動が残っている人には、機能的・課題特異的な動作を高い反復回数で練習することが推奨されています。
「たくさん練習したほうが良い」という研究
まず、リハビリの量を増やすことに肯定的な研究を見てみましょう。
2024年に発表された上肢リハビリに関するシステマティックレビューでは、脳卒中後の上肢機能回復とリハビリの量・方法について検討されています。
この研究では、30時間を超えるリハビリを行った研究で、小~大程度の効果が認められたと報告されています。
特に「課題指向型」のリハビリでは、
- ・発症から比較的早い時期:ES=0.88
- ・慢性期:ES=0.71
という比較的大きな効果量が報告されています。
ここから分かるのは、
「発症から時間が経っていても、適切な課題を十分な量で練習することには意味がある」
ということです。
ただし、これは「30時間やれば必ず改善する」という意味ではありません。
研究の対象者やリハビリ内容はそれぞれ異なるため、個人にそのまま当てはめることはできません。
2024年のメタ解析でも「量を増やすメリット」
さらに、2024年に発表された運動療法のメタ解析では、脳卒中後の運動療法について「どれくらい行うか」と機能改善の関係が調べられています。
その結果、運動療法に費やす時間が多い群では、少ない群と比べてADLに有意な改善が認められました。
ADLとは、
- ・着替え
- ・食事
- ・トイレ
- ・入浴
- ・移動
など、日常生活に必要な動作のことです。
この研究ではADLについて、
SMD=0.18(95%CI 0.06–0.30)
という結果が報告されています。
また、運動療法の強度が高い群では下肢機能について、
SMD=0.66(95%CI 0.18–1.13)
という結果も示されています。
一方で、エビデンスの確実性はADLでは中等度、下肢機能では低いと評価されています。
つまり、
「運動療法を増やすことには一定のメリットがありそう」
ですが、
「量を増やせば必ず大幅に改善する」とまでは言えない
というのが研究から見える現実です。
では、毎日長時間やればいいの?
ここが重要です。
実は、昔から「リハビリの時間を増やせば、それだけ回復するのか?」という研究が行われています。
2000年に発表されたランダム化比較試験では、脳卒中患者を対象に、
通常の30分の理学療法
と
60分の理学療法
を比較しました。
ところが、全体として6週間後の改善に有意な差は認められませんでした。
つまり、
単純にリハビリ時間を2倍にしたからといって、全員に明らかな追加効果が出るわけではなかった
ということです。
これは非常に重要な研究です。
「もっとやればもっと良い」という考え方には、限界があることを示しています。
「長時間」より「短時間を複数回」が良い場合も
急性期の脳卒中では、さらに興味深い研究があります。
AVERT研究のデータを用いた2016年の解析では、2,104人の脳卒中患者が分析されました。
この研究では、1日の離床セッションの頻度が高いほど、3か月後の良好な転帰と関連していました。
一方で、1日に行う離床時間そのものが長くなるほど良いとは限らず、解析では1日あたりの時間が増えることが良好な転帰のオッズ低下と関連する結果も示されています。
つまり、
「1回で長時間頑張る」
よりも、
「短い練習を適切なタイミングで複数回行う」
という考え方が重要になる場合があります。
ただし、この研究は発症直後の急性期の離床についての研究です。
そのまま発症半年後や1年後の自主トレに当てはめることはできません。
「毎日」が重要なのではなく「適切な反復」が重要
ここまでの研究を整理すると、
「毎日やる」
ことそのものが魔法のように回復を早めるわけではありません。
大切なのは、
適切な動作を繰り返すこと
です。
例えば、
「手を動かす練習を毎日100回しています」
という方がいたとします。
しかし、毎回、
- ・肩をすくめる
- ・体を大きく傾ける
- ・手首が固まる
- ・指が過剰に曲がる
といった代償動作を繰り返しているとしたら、
「100回やった」
という数字だけでは評価できません。
むしろ、
どのような動作を100回繰り返したのか
が重要です。
「間違った動作を100回」より「良い動作を20回」
リハビリでは、
量 × 質
という考え方が重要です。
例えば、
Aさん
正しい動作を意識しながら
20回練習する
Bさん
代償動作を使いながら
100回練習する
この場合、
「Bさんのほうが5倍練習しているから、5倍良い」
とは言えません。
脳は繰り返した動作を学習していくため、
「どの動作を繰り返しているのか」
が重要になります。
だからこそ、リハビリでは「回数」だけでなく、
- ・姿勢
- ・重心
- ・関節の動き
- ・筋肉の使い方
- ・感覚
- ・注意
- ・タイミング
- ・動作の目的
などを確認します。
毎日の自主トレはどう考えればいい?
では、自宅で毎日リハビリをする場合、どうすればよいのでしょうか?
ポイントは、
「毎日やること」より「無理なく継続できること」
です。
例えば、
朝
5~10分程度
手指の運動や姿勢練習
↓
日中
実際の生活で麻痺側を使う
↓
夕方
10~15分程度
目標動作の練習
というように、短い時間に分ける方法もあります。
もちろん、具体的な内容は身体機能や症状によって変わります。
「生活そのもの」をリハビリにする
毎日リハビリをするなら、必ずしも専用の運動だけを行う必要はありません。
例えば、
・コップを持つ
・タオルをたたむ
・衣服を着る
・食器を洗う
・冷蔵庫から物を取り出す
といった生活動作も、適切に行えばリハビリの機会になります。
特に作業療法では、
「その人が実際に生活で行う動作」
を練習することが重要です。
例えば、
「手をもっと動かしたい」
という目標を、
「箸を使いたい」
に変えてみる。
すると、
手指の分離
↓
物をつまむ
↓
箸を操作する
↓
食べ物をつまむ
↓
口まで運ぶ
という具体的な課題になります。
これが課題特異的練習です。
「毎日できない」と落ち込まなくていい
ここも非常に大切です。
「毎日やらないと回復しない」
と考えてしまうと、
1日できなかった
↓
自分はダメだ
↓
やる気がなくなる
↓
練習をやめてしまう
という悪循環になることがあります。
リハビリはマラソンに近いものです。
1日完璧にできることより、長く続けられることのほうが重要です。
・体調が悪い日には休む。
・疲労が強い日は量を減らす。
・痛みがある場合は方法を見直す。
そうした調整もリハビリの一部です。
やりすぎにも注意が必要
「毎日頑張る」ことには注意点もあります。
特に、
- ・強い疲労
- ・痛み
- ・筋肉の張り
- ・関節痛
- ・めまい
- ・息切れ
- ・動作の質の低下
などが出ている場合には、単純に練習量を増やすべきではありません。
研究全体では運動療法の量を増やしても有害事象の発生率に有意差がなかったというメタ解析もありますが、研究対象や介入内容には違いがあります。したがって、個々の患者さんでは医学的状態や症状に合わせて調整する必要があります。
特に発症直後や重症度の高い方は、自己判断で運動量を大幅に増やすのではなく、主治医やリハビリ専門職に相談することが大切です。
「疲れるまでやる」は良いリハビリとは限らない
リハビリでよくある誤解が、
「疲れた=たくさん頑張った=良いリハビリ」
という考え方です。
必ずしもそうではありません。
例えば、手の練習をしていて、
最初の10回
→ 良い動作
20回
→ 少し疲れる
30回
→ 肩が上がる
40回
→ 体を傾ける
50回
→ 動作が崩れる
となるのであれば、50回まで無理に続けることが良いとは限りません。
むしろ、
「質を保てる範囲で練習し、休憩を入れる」
という方法も重要です。
発症から半年以上経っていても「量」は意味がある
「発症して半年以上経っているから、毎日練習しても意味がない」
ということもありません。
2024年の上肢リハビリのシステマティックレビューでは、慢性期でも課題指向型のリハビリで効果が示されており、30時間を超える介入で比較的大きな効果が報告されています。
つまり、
発症から時間が経ったから練習量が無意味になるわけではありません。
ただし、慢性期では「ただ歩く」「ただ手を動かす」ではなく、
「何を改善したいのか」
を明確にして練習することがより重要になります。
毎日のリハビリで意識したい5つのポイント
①目的を決める
「手を動かす」ではなく、
「箸を使うため」
「着替えるため」
など、具体的な目標を決めます。
②少し頑張ればできる難易度にする
簡単すぎても、難しすぎてもいけません。
「少し難しいけれど成功できる」
くらいを目安にします。
③正しい動作を繰り返す
回数だけを目標にせず、
「どのように動いているか」
を確認します。
④休憩も練習の一部と考える
疲労で動作が崩れてきたら、休憩を入れます。
⑤生活の中で使う
リハビリの時間だけでなく、
- ・食事
- ・着替え
- ・家事
- ・趣味
- ・外出
など、実際の生活で使うことが重要です。
まとめ|「毎日」より「適切な量と質」が大切
今回の記事のポイントをまとめます。
毎日リハビリをすることは、脳卒中後の回復を目指すうえで有効な方法の一つです。
研究では、リハビリの総量を増やすことでADLや運動機能が改善する可能性が示されています。
また、上肢リハビリでは、30時間を超える課題指向型の介入で比較的大きな効果が報告されています。
一方で、
「長時間やればやるほど良い」
とは限りません。
リハビリ時間を30分から60分に増やしても、全員に明らかな追加効果が認められなかった研究もあります。
さらに急性期の研究では、長時間の連続した練習より、短時間のセッションを複数回行うことが有利な可能性も示されています。
つまり、
「毎日やる」ことだけを目標にするのではなく、
「目的のある動作を、適切な難易度で、質を保ちながら繰り返す」ことが大切です。
そして、リハビリのゴールは「練習をたくさんすること」ではありません。
「実際の生活でできることを増やすこと」
です。
「毎日リハビリしているのに、生活動作がなかなか良くならない」
という方は、単純に練習量を増やすのではなく、練習内容や動作の質、目標設定を一度見直してみることをおすすめします。
愛知県一宮市で脳卒中後のリハビリなら|リハビリスタジオ一宮
「毎日自主トレしているけれど、なかなか改善しない」
「もっと手を使えるようになりたい」
「歩いているけれど、歩き方が良くならない」
「リハビリの量を増やしたほうがいいのか分からない」
「自分に合った自主トレを知りたい」
このようなお悩みがある方は、リハビリスタジオ一宮へご相談ください。
リハビリスタジオ一宮では、作業療法士によるマンツーマンの自費リハビリを行っています。
大切にしているのは、単純に運動量を増やすことではありません。
現在の身体機能や動作を確認し、
- ・手・腕の動き
- ・手指の細かな動作
- ・感覚
- ・姿勢・バランス
- ・歩行
- ・食事
- ・着替え
- ・トイレ
- ・入浴
- ・家事
など、実際の生活で困っていることから逆算してリハビリを考えます。
「毎日やっているけど、これで合っているのかな?」
そんな疑問をお持ちの方も、一度現在のリハビリ方法を見直してみませんか?
リハビリスタジオ一宮
愛知県一宮市の自費リハビリ施設
- ・作業療法士によるマンツーマン対応
- ・脳卒中後遺症を中心に対応
- ・神経難病・パーキンソン病などにも対応
- ・初回体験:5,000円 施術60分+カウンセリング15分
「もっとできるようになりたい」という目標を、無理なく続けられる具体的なリハビリにつなげていきます。
お気軽にご相談ください。
ご予約・ご相談はこちらから
事前決済がご希望の方はこちらから
内部リンク
・脳卒中の回復には「脳の可塑性」が重要|作業療法士がわかりやすく解説
・発症から半年過ぎても回復は期待できる?最新のリハビリの考え方を解説
引用文献
- Salvalaggio, S., Gianola, S., Andò, M., et al. (2024). Predictive factors and dose–response effect of rehabilitation for upper limb induced recovery after stroke: Systematic review with proportional meta-analyses. Physiotherapy, 125, 101417.
- National Clinical Guideline for Stroke. (2023). Rehabilitation and recovery – motor recovery and physical effects of stroke.
- Kwakkel, G., van Peppen, R., Wagenaar, R. C., et al. (2004). Effects of augmented exercise therapy time after stroke: A meta-analysis. Stroke, 35(11), 2529–2539.
- Langhorne, P., Collier, J. M., Bate, P. J., Thuy, M. N. T., & Bernhardt, J. (2017). Very early versus delayed mobilisation after stroke. Cochrane Database of Systematic Reviews.
- Bernhardt, J., Langhorne, P., Lindley, R. I., et al. (2015). Efficacy and safety of very early mobilisation within 24 h of stroke onset (AVERT): A randomised controlled trial. The Lancet, 386(9988), 46–55.
- Langhorne, P., Wu, O., Rodgers, H., Ashburn, A., & Bernhardt, J. (2017). A very early rehabilitation trial after stroke (AVERT): A randomized controlled trial. The Lancet.
- Partridge, C., Johnston, M., Edwards, S., et al. (2000). Is dosage of physiotherapy a critical factor in deciding patterns of recovery from stroke: A pragmatic randomized controlled trial. Physiotherapy Research International, 5(4), 230–240.
- Winstein, C. J., Stein, J., Arena, R., et al. (2016). Guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery. Stroke, 47(6), e98–e169.
- The Impact of the Total Amount of Exercise Therapy on Post-Stroke Activities of Daily Living and Motor Function: A Meta-Analysis. (2024).