方向転換すると転びそうになる原因とは?|脳卒中後のふらつきを作業療法士が解説

「まっすぐ歩くことはできるのに、曲がるときにふらつく」

「方向転換すると転びそうになる」

「後ろを振り向いたときにバランスを崩す」

「脳梗塞の後から、歩いていて曲がる動作が怖くなった」

このような悩みは、脳卒中後の方からよく聞かれるものの一つです。

脳卒中後の歩行では、まっすぐ歩く能力だけでなく、方向転換するときに身体をどのように動かせるかも重要になります。

方向転換では、歩行しながら身体の向きを変え、重心を移動させ、足を適切な位置へ出し、次の方向へ進まなければなりません。

そのため、まっすぐ歩くことができても、方向転換になると急にふらつくことがあります。

脳卒中後のバランス障害には、下肢の筋力低下だけでなく、体幹コントロール、感覚、二重課題、身体の垂直性の認識など、さまざまな要素が関係します。

この記事では、脳卒中後に方向転換すると転びそうになる原因について、

  • 方向転換にはどのような種類があるのか

  • なぜ方向転換でふらつきやすいのか

  • 転倒につながる理由

  • 方向転換に必要な身体の要素

  • バランスを改善するためのリハビリ

について、作業療法士の視点から解説します。


脳卒中後の方向転換にはどんな種類がある?

一言で「方向転換」といっても、日常生活ではさまざまな方法で身体の向きを変えています。

90度方向転換

例えば、

「廊下を歩いていて部屋に入る」

「キッチンで方向を変える」

「トイレに入るために曲がる」

といった場面です。

比較的小さな方向転換ですが、歩行中に身体の向きを変えながら足を運ぶ必要があります。

180度方向転換

さらに大きな方向転換が180度方向転換です。

例えば、

「廊下の突き当たりでUターンする」

「歩いていて後ろから声をかけられて振り返る」

「ベッドから離れて方向を変える」

などがあります。

180度の方向転換では、複数回足を踏み替えながら身体の向きを変える必要があります。

歩きながら振り返る

方向転換では、必ずしも身体全体を大きく回すとは限りません。

「後ろから呼ばれて振り返る」

「横にあるものを見る」

「人を避ける」

など、視線や頭部を動かしながら歩くこともあります。

このような動作では、歩行と視覚的な情報処理を同時に行う必要があります。


なぜ脳卒中後は方向転換でふらつくの?

方向転換でふらつく原因は一つとは限りません。

麻痺側に体重を移動しにくい

方向転換では、進行方向に合わせて身体の重心を移動させる必要があります。

しかし、脳卒中後には麻痺側の脚に十分に体重を乗せることが難しくなる場合があります。

すると、

「麻痺側に体重を乗せる」

↓

「反対側の足を動かす」

という動作がスムーズに行えなくなります。

その結果、方向転換の途中で身体が不安定になることがあります。

体幹をうまく動かせない

方向転換では、脚だけでなく体幹も動きます。

歩行中に身体の向きを変えるとき、頭部、体幹、骨盤、下肢などが連動して動く必要があります。

脳卒中後に体幹のコントロールが低下していると、身体を回転させる動作がぎこちなくなり、足だけで方向を変えようとすることがあります。

足を出すタイミングが遅れる

方向転換では、

「重心を移動する」

「足を出す」

「次の足を置く」

という動作を連続して行います。

麻痺側の足を適切な方向へ出すことが難しい場合、身体の重心だけが先に移動してしまい、足が追いつかなくなることがあります。

これが「転びそう」という感覚につながる場合があります。

感覚が低下している

足の裏や関節などから得られる感覚も、バランスを保つために重要です。

麻痺側の足から入ってくる情報が分かりにくい場合、

「足が床にしっかりついているか」

「どちらに体重がかかっているか」

「身体がどの方向へ傾いているか」

を把握しにくくなることがあります。

脳卒中後のバランス障害には、筋力だけでなく感覚や身体の垂直性の認識なども関係するとされています。


方向転換で転倒しやすくなるのはなぜ?

方向転換では、単純な歩行よりも多くの調整が必要です。

例えば、

まっすぐ歩く

↓

進行方向を変える

↓

身体を回転させる

↓

足を新しい方向へ出す

↓

新しい方向へ歩き続ける

という流れになります。

つまり、方向転換は「歩く」という一つの動作ではなく、複数の動作を連続して行う課題です。

さらに実際の生活では、

  • ・人を避ける

  • ・会話する

  • ・荷物を持つ

  • ・周囲を見る

  • ・障害物を避ける

などが同時に起こります。

脳卒中後の転倒には、バランスや移動能力だけでなく、二重課題や課題の計画・実行、認知機能なども関係するとされています。

そのため、「まっすぐ歩けるから転倒しない」とは限りません。


方向転換に必要な5つの要素

方向転換を安定させるには、いくつかの能力を組み合わせる必要があります。

① 重心を移動する能力

方向転換では、身体を新しい進行方向へ移動させる必要があります。

例えば右へ曲がるのであれば、身体の重心も右方向へ適切に移動させなければなりません。

この重心移動が苦手だと、足だけを動かしてしまい、身体が取り残されることがあります。

② 麻痺側の足で身体を支える能力

麻痺側の脚に十分な荷重ができることも重要です。

ただし、「左右50%ずつ体重をかけること」が目的ではありません。

重要なのは、必要な方向へ安全に重心を移動し、必要なときに麻痺側の脚でも身体を支えられることです。

③ 足を適切な方向へ出す能力

方向転換では、足を前だけではなく、横方向や斜め方向へ出す場面があります。

麻痺側の足を動かしにくい場合、足を小刻みに何度も踏み替えたり、身体を大きく振ったりすることがあります。

④ 体幹と骨盤を回旋させる能力

方向転換では、身体全体を一つの塊として動かすのではなく、頭部・体幹・骨盤・下肢を適切に連動させることが重要です。

体幹や骨盤の動きが乏しい場合、足だけで方向を変えるような歩き方になることがあります。

⑤ 周囲の情報を処理する能力

実際の生活では、方向転換だけに集中できるとは限りません。

例えば、

「人が近づいてくる」

「後ろから声をかけられる」

「床に物が置いてある」

「荷物を持っている」

など、さまざまな情報を処理しながら歩く必要があります。

こうした二重課題では、歩行やバランスが不安定になることがあります。

近年のシステマティックレビューでも、慢性期の脳卒中者を対象に、二重課題トレーニングが歩行アウトカムを改善する可能性が報告されています。ただし、研究間の違いもあるため、すべての人に同じ方法が適用できるわけではありません。


脳卒中後の方向転換をチェックするポイント

方向転換のリハビリを考えるときは、単純に「転ばずに曲がれるか」だけを見るのではありません。

どちらの方向に曲がると不安定になるか

右方向と左方向で違いがないか確認します。

麻痺側への方向転換で特に不安定になる場合、重心移動や麻痺側下肢の支持能力などが関係している可能性があります。

足を何回踏み替えているか

方向転換するときに、何度も小さく足を踏み替えていないでしょうか。

もちろん小刻みなステップ自体が悪いわけではありません。

むしろ安全のために小さく踏み替えることが有効な場合もあります。

重要なのは、本人にとって安全な方法なのか、それとも足をうまく動かせないために不安定になっているのかを見極めることです。

身体が大きく揺れていないか

方向転換中に身体が左右へ大きく揺れる場合も確認します。

特に、

「曲がり終わった後にふらつく」

という場合は、方向転換そのものだけでなく、方向転換後に新しい歩行へ移行する部分にも問題がある可能性があります。


方向転換のリハビリは何をすればいい?

脳卒中後のバランスリハビリでは、現在の能力に合わせて段階的に練習することが大切です。

脳卒中のガイドラインでは、座位・立位・ステップ・歩行など、さまざまなレベルのバランス障害に対して、反復的な課題練習を含む段階的なバランストレーニングが推奨されています。

①まずは安全な立位で重心移動

方向転換で必要になる動きを、いきなり歩行中に練習する必要はありません。

まずは安全な環境で、

  • ・前後への重心移動

  • ・左右への重心移動

  • ・麻痺側への荷重

  • ・足を踏み出す

などを確認します。

転倒リスクがある場合は、必ず支持物や専門家の介助など、安全を確保したうえで行います。

②ステップ動作を練習する

次に、左右や斜め方向へ足を出す練習などを行います。

方向転換では、足を前に出すだけではなく、進行方向を変えるためのステップが必要になるためです。

③実際の方向転換を練習する

能力が高まってきたら、

「歩く → 曲がる → 歩く」

という実際の動作を練習します。

例えば、

  • ・90度方向転換

  • ・180度方向転換

  • ・狭い場所での方向転換

  • ・障害物を避ける

  • ・方向転換後に歩き続ける

など、生活に近い課題へ進めていきます。

機能的な課題を用いたトレーニングは、脳卒中後のバランス改善に有効であることがシステマティックレビューで示されています。一方、研究では介入内容にばらつきがあり、個別化が重要です。

④二重課題を取り入れる

さらに安全に実施できる段階になれば、

「歩きながら会話する」

「歩きながら周囲を見る」

など、実生活に近い課題を取り入れることも考えられます。

ただし、転倒リスクが高い方が自己判断で難しい二重課題を行うのは危険です。

まずは専門家の評価を受け、現在の能力に合わせて段階的に行うことが大切です。


「方向転換すると怖い」は重要なサイン

方向転換のときに、

「なんとなく怖い」

「転びそうな感じがする」

という感覚がある場合、それを単なる気のせいとして片付けないことも大切です。

バランス能力が低下すると、転倒への不安や自信の低下につながることがあります。

脳卒中ガイドラインでも、バランス障害は自信を低下させ、転倒リスクを高めるとされています。

そのため、

「怖いから動かない」

という状態が続くよりも、

「何が原因で怖いのかを確認する」

ことが重要です。

例えば、

  • ・麻痺側に体重を乗せるのが怖い

  • ・足が引っかかりそう

  • ・身体が回らない

  • ・曲がった後にふらつく

  • ・周囲を見ながら歩くと不安定になる

など、原因を細かく分けて考えることで、必要なリハビリも変わってきます。


脳卒中後のバランス障害と転倒を防ぐために

転倒を防ぐには、バランス練習だけを行えば十分というわけではありません。

脳卒中後の転倒リスク評価では、バランスや歩行だけでなく、視覚、筋力、薬剤、認知機能、二重課題、過去の転倒など、複数の要因を確認することが推奨されています。

2024年のレビューでも、脳卒中後の転倒予防に用いられるバランストレーニングには、通常のバランス練習、課題指向型練習、感覚を利用した練習、認知課題を組み合わせた練習など、さまざまな方法が報告されています。今後は個人に合わせたトレーニングの組み合わせが重要な研究課題とされています。

また、2026年に発表された地域生活者を対象とするメタ解析では、転倒予防を目的とした運動について、転倒率が低下する方向の結果は示されたものの、転倒者数そのものについては明確な減少が確認されず、効果には不確実性が残っています。

つまり、

「この運動をすれば転倒しなくなる」

と単純に考えるのではなく、

その人がどの場面で転びそうになるのかを評価し、その原因に合わせて対策すること

が重要です。


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まとめ|方向転換で転びそうになる原因を確認することが大切

脳卒中後に「方向転換すると転びそうになる」という場合、単純に足の筋力が弱いことだけが原因とは限りません。

方向転換には、

  • ・重心移動

  • ・麻痺側下肢で身体を支える能力

  • ・足を適切な方向へ出す能力

  • ・体幹・骨盤の回旋

  • ・感覚情報の処理

  • ・視覚や認知機能

  • ・歩行能力

  • ・二重課題への対応

など、さまざまな能力が関係しています。

そのため、

「方向転換が苦手だから、方向転換だけを練習する」

という考え方だけでは十分ではありません。

まず、

なぜ方向転換でふらつくのか?

を確認することが重要です。

麻痺側への荷重が苦手なのか。

体幹が動かしにくいのか。

足を出すタイミングが合わないのか。

感覚が分かりにくいのか。

歩行そのものが不安定なのか。

それとも、周囲を見ながら歩くなどの二重課題が関係しているのか。

原因によって必要なリハビリは変わります。

「まっすぐなら歩けるけれど、曲がると怖い」

「方向転換でふらつく」

「脳梗塞の後から転倒が増えた」

という方は、現在の歩行やバランスを一度確認してみることをおすすめします。


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脳卒中後の「ふらつき」は、単純に筋力だけを見ればよいとは限りません。

特に方向転換では、

  • ・麻痺側への体重移動

  • ・体幹や骨盤の動き

  • ・足の踏み出し

  • ・歩行速度

  • ・バランス能力

  • ・転倒につながる動作

などを総合的に確認することが大切です。

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参考文献

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