「ベッドから立つときにふらつく」
「立ち上がった直後に身体が揺れる」
「ベッドから立って歩き始めるときが怖い」
「朝起きて立つと、足元が安定しない」
脳卒中後には、このような悩みがみられることがあります。
ベッドから立ち上がる動作は、毎日の生活で何度も行う基本的な動作です。しかし、実際には座った状態から立位へ身体の重心を移動させ、両足で身体を支え、さらに歩き始めるという複数の要素が組み合わさっています。
特に脳卒中後は、麻痺側への体重移動が少なくなったり、体幹や下肢のコントロールが低下したりすることで、立ち上がりの途中や立った直後にバランスを崩すことがあります。
実際、脳卒中後の立ち上がり動作を調べたシステマティックレビューでは、健常者と比較して、麻痺側と非麻痺側の荷重の偏り、体幹の側方への動き、骨盤や股関節の動き、膝を伸ばすタイミングなどに違いがみられることが報告されています。
この記事では、ベッドから立つときにふらつく原因、確認したい評価ポイント、立ち上がりに必要な構成要素、改善するためのリハビリ方法について、作業療法士の視点から解説します。
ベッドから立つときにふらつく原因とは?
まず大切なのは、「立ち上がるときのふらつき=筋力が弱い」と単純に考えないことです。
脳卒中後のバランス障害には、下肢の筋力だけでなく、体幹のコントロール、感覚、視覚、二重課題、身体の垂直性の認識なども関係します。
・麻痺側に体重を乗せにくい
脳卒中後によくみられるのが、麻痺側への荷重不足です。
立ち上がる前の座位では、両足を床につけているように見えても、実際には非麻痺側へ体重が偏っていることがあります。
その状態から立ち上がると、さらに非麻痺側へ身体を逃がすような動きになりやすくなります。
脳卒中後の立ち上がりでは、非麻痺側への体幹の側方偏位や、左右の荷重の非対称性が報告されています。
・体幹を前に倒すことが難しい
椅子やベッドから立つためには、身体を前方へ移動させる必要があります。
座った状態からいきなり真上へ立とうとするのではなく、
身体を前へ移動する → お尻がベッドから離れる → 足で身体を支える → 身体を伸ばして立つ
という流れになります。
この最初の「前方への重心移動」がうまくできないと、立ち上がりにくくなります。
・下肢で身体を支える力が不足している
立ち上がった後には、膝や股関節などを伸ばして身体を安定させる必要があります。
特に麻痺側の下肢で身体を支える能力が低下していると、立った瞬間に反対側へ身体が傾いたり、足元が不安定になったりすることがあります。
・立った直後の姿勢調整が苦手
「立ち上がることはできるけれど、その瞬間にふらつく」という場合もあります。
これは、立ち上がりそのものだけでなく、座位から立位へ姿勢が変化した後に身体を安定させる能力が関係している可能性があります。
脳卒中後の立ち上がりでは、立位になった後の安定化にも違いがみられることが報告されています。
ベッドから立つときに確認したい5つの評価ポイント
では、実際にどこを確認すればよいのでしょうか。
① ベッドに座った状態で姿勢が偏っていないか
まずは立ち上がる前の姿勢を確認します。
ベッドに座ったとき、
- ・身体が麻痺側へ傾いている
- ・非麻痺側へ大きく傾いている
- ・骨盤が左右どちらかにずれている
- ・足の位置が左右で大きく違う
といったことがないか確認します。
立ち上がりの問題は、実は「立ち上がる瞬間」だけにあるとは限りません。
その前の座位姿勢や足の位置からすでに動作の準備が始まっています。
② 足の位置は適切か
次に確認したいのが足の位置です。
足が身体から遠すぎると、立ち上がるために必要な前方への重心移動が大きくなります。
一方で、足を近づけすぎると、膝や足関節の動きなど別の問題が生じることがあります。
また、左右の足の位置が大きく違う場合には、左右差のある立ち上がりにつながることがあります。
重要なのは「全員が同じ足の位置にする」ことではありません。
その人が安全かつ効率的に立ち上がれる足の位置を評価することが大切です。
③ 前方へ重心を移動できているか
立ち上がりでは、身体を前方へ移動させることが重要です。
ここで確認したいのが、
「お辞儀をするように身体を前へ移動できているか」
という点です。
ただし、単純に「もっと前に倒れましょう」と指示すればよいわけではありません。
体幹を前へ動かす能力だけでなく、足の位置、股関節・膝関節の動き、麻痺側への荷重なども関係します。
④ 麻痺側に体重を乗せられているか
立ち上がりの途中で、麻痺側の足がしっかり身体を支えているか確認します。
例えば、
「立ち上がるときに身体が大きく非麻痺側へ逃げる」
「麻痺側の膝が崩れる」
「麻痺側の足が床から浮きそうになる」
といった場合には、麻痺側下肢の支持や荷重の問題が関係している可能性があります。
ただし、ここでも「左右50:50で体重を乗せること」が絶対的な目標ではありません。
必要なのは、立ち上がりという動作の中で、麻痺側も含めて身体を安全に支えられることです。
⑤ 立った直後にふらついていないか
最後に非常に重要なのが、立ち上がった直後です。
「立ち上がるまでは大丈夫だけど、その後にふらつく」という方もいます。
確認したいのは、
- ・立った瞬間に身体が左右へ揺れる
- ・後ろへ倒れそうになる
- ・前へ出てしまう
- ・麻痺側へ倒れそうになる
- ・足を何度も踏み直す
- ・立ってすぐ歩き出そうとすると不安定になる
といった特徴です。
立ち上がり動作だけでなく、立位へ移行した直後まで含めて評価することが重要です。
ベッドから立つ動作を構成する4つの要素
ベッドから立つ動作を細かく分けると、主に次のような要素があります。
① 座位姿勢
まず、安定した座位を作ります。
骨盤や体幹の位置、足の接地状態などが重要になります。
座っている時点で大きく偏っている場合、その後の立ち上がりにも影響する可能性があります。
② 前方への重心移動
次に、身体の重心を前方へ移動します。
このとき、体幹だけを大きく動かすのではなく、骨盤や股関節の動きも関係します。
立ち上がり動作では、身体の重心を適切に前方へ移動させることが必要です。
③ 下肢で身体を持ち上げる
お尻がベッドから離れたら、下肢を使って身体を持ち上げます。
ここでは、
- ・股関節
- ・膝関節
- ・足関節
- ・体幹
- ・上肢
などの全身の協調した働きが必要です。
脳卒中後は、膝の伸展速度やタイミング、左右の荷重などに違いがみられることが報告されています。
④ 立位を安定させる
立ったら終わりではありません。
立位を安定させてから歩き始める必要があります。
特に、
立ち上がる → 立位を安定させる → 歩き始める
という一連の流れを評価することが重要です。
ベッドの高さも確認したい
意外と見落とされやすいのが、ベッドの高さです。
同じ人でも、低いベッドと高いベッドでは立ち上がり方が変わります。
ベッドからの立ち上がりを調べた研究では、ベッドの高さが高くなるほど、立ち上がり時の体幹の動きや角速度が小さくなり、手を使う場合にも動作への負担が小さくなることが報告されています。
もちろん、「高ければ高いほど良い」という意味ではありません。
自宅のベッドの高さ、本人の身長、下肢の状態、足の接地、立った後の動作などを含めて考える必要があります。
また、2024年の研究では、リハビリ施設と自宅ではベッド・椅子・トイレなどの高さに違いがあることが報告されており、退院後の環境を想定した評価の重要性が示されています。
そのため、リハビリ施設では問題なく立てても、自宅のベッドでは立ちにくいということもあります。
ベッドから立った後に歩き出すときも注意
ベッドから立つ動作だけでなく、その後の歩き始めも確認しましょう。
例えば、
「立ったらすぐ歩き出してしまう」
「立位が安定する前に足を出してしまう」
「最初の一歩でふらつく」
といった場合です。
特に夜間にトイレへ行くときは、暗い環境や眠気なども加わります。
脳卒中後の転倒は、ベッドから椅子への移動やトイレへ歩く場面などでも起こりやすいことが報告されています。
また、脳卒中者では、移乗能力がかなり自立してきた段階でも転倒が起こることが報告されています。ある研究では、移乗が「最小介助程度」の群で転倒率が高かったとされています。
つまり、
「一人で立てる=転倒の心配がない」
とは限りません。
ベッドから立つときのふらつきを改善するには?
改善方法は、ふらつきの原因によって変わります。
① まずは立ち上がり動作そのものを練習する
立ち上がりが苦手なのに、スクワットや筋力トレーニングだけを行うのではなく、実際の立ち上がり動作を練習することも重要です。
脳卒中後の立ち上がり訓練をまとめたシステマティックレビューでは、反復的な立ち上がり練習などにより、立ち上がりにかかる時間や左右の荷重の対称性が改善することが報告されています。一方、転倒そのものへの効果については十分な結論が出ていません。
つまり、
「実際に必要な動作を練習する」
という考え方が重要です。
② 麻痺側への荷重を練習する
麻痺側に体重を乗せることが難しい場合は、立ち上がり動作の中だけでなく、座位や立位での荷重練習を行うことがあります。
ただし、無理に麻痺側へ体重をかければよいわけではありません。
安全な範囲で、
- ・左右への重心移動
- ・足の踏み替え
- ・リーチ動作
- ・立位での姿勢調整
などを組み合わせます。
脳卒中ガイドラインでも、座位・立位・ステップ・歩行などの各段階で、反復的な課題練習を含む段階的なバランストレーニングが推奨されています。
③ 体幹の動きを改善する
立ち上がりでは体幹の動きが重要です。
体幹トレーニングについては、脳卒中後の体幹コントロール、立位バランス、移動能力への効果を検討したメタ解析があり、体幹トレーニングによってこれらの能力が改善する可能性が報告されています。
ただし、体幹トレーニングだけを行えばよいわけではありません。
実際の立ち上がり動作と組み合わせることが大切です。
④ ベッドの高さや環境を見直す
自宅での動作を改善する場合は、ベッドの高さも確認します。
また、
- ・ベッド横に物が置かれていないか
- ・足元が滑りやすくないか
- ・夜間に照明が確保されているか
- ・手をつく場所が適切か
- ・立った後にすぐ歩かなければならない配置になっていないか
なども確認します。
リハビリは身体機能だけでなく、実際に生活する環境まで含めて考えることが重要です。
自宅で確認するときに注意したいこと
ベッドから立つときのふらつきがある方は、自分で何度も確認しようとする必要はありません。
特に、
- ・過去に転倒したことがある
- ・立ち上がりで大きくふらつく
- ・麻痺側の膝が崩れる
- ・立った直後に倒れそうになる
- ・杖や手すりが必要
- ・めまいや意識が遠くなる感じがある
といった場合は、安全を優先してください。
「練習のために一人で何度も立つ」というのは避け、必要に応じて専門家に動作を確認してもらいましょう。
ベッドから立つ動作とバランスはつながっている
ベッドから立つ動作は、単純な「筋力テスト」ではありません。
座る → 前へ重心を移す → お尻を浮かす → 下肢で支える → 立位を安定させる → 歩き始める
という一連の動作です。
そのため、途中のどこで問題が起きているのかを確認することが重要です。
例えば、
「お尻がベッドから離れない」
なら前方への重心移動や下肢の力など。
「立ち上がると身体が横に流れる」
なら左右の荷重や体幹のコントロールなど。
「立てるけれど、その後ふらつく」
なら立位での姿勢調整やバランスなど。
「立った後の最初の一歩でふらつく」
なら、立ち上がりから歩行への移行も含めて確認する必要があります。
このように、「ふらつく」という結果だけでなく、どの瞬間に問題が起きているのかを見ることが大切です。
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まとめ|ベッドから立つときのふらつきは「立ち上がり全体」を確認する
ベッドから立つときにふらつく場合、単純に「足の筋力が弱い」と判断することはできません。
確認したいポイントは、
- ・ベッド上での座位姿勢
- ・骨盤や体幹の位置
- ・足の位置
- ・前方への重心移動
- ・麻痺側への荷重
- ・股関節・膝・足関節の働き
- ・立った直後の姿勢
- ・歩き始めの安定性
- ・ベッドの高さ
- ・夜間など実際の生活環境
などです。
脳卒中後の立ち上がりでは、左右の荷重の偏りや体幹の動きなど、健常者とは異なる運動パターンがみられることがあります。
また、2025年のシステマティックレビュー・メタ解析では、脳卒中後の立ち上がり訓練について、バランス、移動能力、立ち上がり動作の改善が報告されています。研究によって訓練内容や頻度には違いがあるため、個々の状態に合わせた設定が必要です。
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- ・座っているときの姿勢
- ・足の位置
- ・前方への重心移動
- ・麻痺側への荷重
- ・立位でのバランス
- ・歩き始めの動作
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